研究実績の概要 |
最終年度(第5年度)の研究作業は、基本的に昨年度までのそれの継続と総括であった。すなわち、アンドレ・ジッドが収集した彼自身に関する新聞・雑誌類の記事・書評(パリ大学附属ジャック・ドゥーセ文庫に保管された総数約 3,500点)のうち、1920年代に発表された約660点の通時的分析を続行し、これを完了した。具体的な分析作業は主として次のふたつからなる。第一は、上記のテクスト群を年代順に通覧し、記述内容の傾向と変化・推移を把握することであり、第二は、これらのテクストに関連する書簡をジッド研究者用に作成された膨大な電子データ(非売版)を検索・参照しながら、各記事・書評が発表された背景・経緯を探ること、である。以上の分析作業と調査をつうじて、ジッドを評する媒体もそれまでのような文芸紙誌ばかりか、広い読者層を対象とする一般紙誌へと拡大してゆくこと、またそれとともに執筆者も作家や文芸評論家にくわえ、全般的な題材を扱う思想家やジャーナリストたちが多数参入し、その結果、文学的・美学的な紹介や評価記事と、思想的・倫理的な、場合によっては党派的な論評・批判とが急速に混在してくることが具体的なかたちで把握できた。別言すれば、第一次大戦後のこの時期にいたって初めてジッドの存在が広く社会全体の「事象」となったことをあらためて確認したのである。さらに以上の成果にもとづき、今後推進すべき研究についても明確な指針を策定することができた。
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