令和5年度は、まず査読付き研究論文「Deux climats et deux paysages dans le cycle de l’amour des Fleurs du Mal」を学会誌に発表した。この論文は、2022年度日本フランス語フランス文学会中国・四国支部大会において、「風土と風景―ボードレール『悪の華』恋愛詩群について―」と題して発表した内容を仏語論文にしたものである。『悪の華』の「スプリーンと理想」における3人の女性に捧げられた恋愛詩群を分析し、それぞれの女性の美の特質と風土・風景の特質の照応関係を明らかにした。次に、査読付き研究論文「ボードレール『悪の華』「反抗」の部を読む―「北方」の夢―」を学術誌に発表した。この論文は、『悪の華』の「反抗」の部に属する3編を、神学的な「北方」、すなわち「失楽園後の世界」の観点から分析し、圧政的な神に対して苦しむ人間とサタンの連帯的な反抗の夢として読み解いたものである。この研究は、当初平成30年に予定されていた。さらに、2023年度日本フランス語・フランス文学会中国・四国支部大会において、「太陽よりも美しい北極のオーロラを探す人―ボードレール『悪の華』第5部「死」について―」と題して研究発表を行った。この発表は、『悪の華』「死」の部を分析し、詩集の掉尾を飾る詩篇「旅」において詩人が目指す死の国が、オーロラが空に流れる北極とのアナロジーでとらえられていることを、様々なボードレールのテクストの記述を参照することで明らかにした。これにより『悪の華』の結末と「北方」の関係性を明確にできた。最後に、コロナ禍で実現できていなかったフランス・パリへの研究調査を行った。特に、改修工事が終わり開館されたカルナヴァレ美術館において、19世紀パリを巡る資料やボードレールの遺品などを見ることができ、今後の研究につながる成果を上げることができた。
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