研究課題/領域番号 |
18K00458
|
研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
北原 寛子 北海学園大学, 経済学部, 准教授 (60382016)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | J. J. ボードマー / 想像力 / 18世紀小説理論 / ヴォルテール / ミルトン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、18世紀ドイツの小説理論で、創作された作品を虚構として認識する意識がどのように発展したのか、それと同時に内面描写の技法がどのように成立していったのかを、種々のテクストの分析を手掛かりに明らかにすることである。初年度は、「想像力」Einbildungskraftをどのように位置づけたのかをめぐって、スイス・チューリヒで18世紀半ばに活動したJ. J. ボードマーの『奇跡批判論』(1740)を詳しく分析した。これは叙事詩をめぐる議論であるが、当時叙事詩は文学で最も優れたジャンルとみなされ、小説理論にも大きな影響を与えたために、この問題を取り上げた。 そこで得た結論は、次のようなものである。ボードマーは検討対象とした書籍において、イギリスの詩人ミルトンによる叙事詩『失楽園』をめぐって、フランスのヴォルテールら意見を取り上げて批判的に検討している。ヴォルテールは、ミルトンの作品は荒唐無稽で極端に過ぎると否定的に判断しているが、ボードマーはそれらを逆に詩人の表現の自由とみなして、その伸びやかさゆえに称賛した。彼はキリスト教的な要素については、聖書の記述を絶対として受け止め、尊重する態度を貫いている。つまり宗教の権威に抗おうとする態度は全く示していない。しかし詩人の表現の自由を尊重することは、虚構(=文学)を神の恩寵を寓意によって表したとみなしたとする従来の価値観を打ち破り、神の支配に従属しない人間の自由意思を肯定することつながったのである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、スイス派の代表者J. J. ボードマーとJ. J. ブライティンガーによる3つの理論をまとめて分析の対象とする予定であったが、実際に論文としての成果に結実したのは、ボードマーの『奇跡批判論』一冊であった。それは小説理論に限定されない当時の文学理論について理解を深めるために準備が必要であったからである。本年度は、昨年度の成果をもとに、予定していたスイス派文学理論とその小説理論への影響について、虚構観の発展に加えて内面描写の技法がどのように認識され発展したのかについても考察を進め、研究を促進する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、J. J. ブライティンガーによる『批判詩学』(1740)を取り上げ、そこで虚構観の変遷と内面描写についての見解について分析を進める方針である。さらに、前年度の成果と合わせて、ゴットシェートとの論争が小説理論の発展にどのような影響を与えたのかについて分析を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度からの予算は、マルティン・ヴィーラントのオスマンシュテット版全集を継続購入する予算に充てる。
|