研究課題/領域番号 |
18K00461
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
濱中 春 法政大学, 社会学部, 教授 (00294356)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゲーテ / ニュートン / 色彩論 / 光学 / 図像 / 半透明 / 受容 |
研究実績の概要 |
2018年度は、ニュートン『光学』第一篇第一部の実験3および実験5・命題四・実験11の図版をゲーテ『色彩論』の対応する図版と比較し、両者の相違点と共通点およびその意味について考察した。 実験3の図版については、両者の図法の違いを表象の透明性という観点から考察した。それを通して、『色彩論』ではスペクトルが半透明なイメージとして表象されているのにたいして、『光学』においてもスペクトルは、可視性と不可視性の中間に位置するという意味で半透明なイメージとみなされていることが明らかになった。また、ニュートンのテクストではスペクトルの半透明性の排除が試みられているが、図版にはそれが描かれていることも明らかになった。ここから、ニュートンの光学とゲーテの色彩論とは、透明対不透明といった単なる対立関係にあるのではなく、二種類の半透明性のあいだに見られるような差異と共通性が共存する関係にあるということができる。 また、実験5・命題四・実験11の図版では、スペクトルが複数の円が連なった図形として描かれていることに着目し、18世紀の物理学の文献においてこれらの図がどのように受容されているかを調査するとともに、ゲーテの『色彩論』ではそれらがどのように再現されているかについて考察した。18世紀には、円の連なりとしてのスペクトルの図像は広く受容され、多くの文献で再現されているが、ニュートンの原図とは描写がさまざまに改変されていること、また、ゲーテの図版でもニュートンの図は改変されているが、それはそのような18世紀におけるニュートンの図の受容史を踏まえたものであることが明らかになった。そして、ゲーテの改変を通して、ニュートンの図にそなわった言語的な性格が浮かび上がってきた。 その他、上記以外にも17・18世紀の光学の文献における図版の収集もおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲーテのニュートン批判が「図像論争」の性格をもつことに着目し、その『色彩論』(1810)においてニュートンの『光学』(1704)の図版がどのように批判されているかについて、個々の事例に即して、両者のテクストと図像の分析を通して考察するという研究全体の構想にもとづいて、まず『光学』の二種類の図版について、『色彩論』の図版と比較・分析をおこない、両者の関係やその意味の一端を明らかにすることができた。 また、ゲーテとニュートンの図版をとりまく歴史的なコンテクストを把握するために、17・18世紀の光学の文献における図版の収集にも着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度以降も、『光学』と『色彩論』の図版との比較・考察を進める。特に2019年度は、まずニュートンの図版にたいするゲーテの批判の全体像を概観した上で、個別の図についての考察をおこなう。 また、17・18世紀の光学の文献における図版の収集もひき続き進めていく。さらに、『色彩論』および『光学』の図版の意味をより深く理解し、それらの成立過程を把握するために、ゲーテの色彩研究およびニュートンの光学研究において生まれた他の図像の調査もおこなう。 これらと並行して、ゲーテとニュートンの科学思想にかんする先行研究の把握も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りに使用した。残額はきわめて少額であり、それだけで使用することは困難であるため、次年度の助成金と合わせて使用することにする。
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