研究課題/領域番号 |
18K00462
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
澤田 直之 (澤田直) 立教大学, 文学部, 教授 (90275660)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カリブ海 / ファノン / グリッサン / 加藤周一 / エメ・セゼール |
研究実績の概要 |
第二次世界大戦後の世界に大きな影響を与えた作家・思想家ジャン=ポール・サルトルの文学と思想、およびフランス実存主義が1950年代から独立の機運が高まり、次第に独立を獲得していくことになる第三世界の知識人たちに大きな影響を与えたことは言うまでもない。アルベール・メンミやフランツ・ファノンの著作、あるいはネグリチュードの詩のために書かれたサルトルの序文はしばしば考察の対象となってきたが、実存主義のインパクトがどのようなものであったのかについては、いまだその全貌が解明されてきたとは言いがたい。そのためには、文献読解だけでは不十分であり、文献研究を実証的なアプローチと組みあせて考察することが必要である。本研究の目的はこのような立体的なアプローチにより、フランス実存主義が第三世界の知識人たちに浸透していく過程を実態を明らかにすることにある。 二年目にあたる2019年度は、引き続き膨大な資料を丹念に読み込み、整理する作業を行った。とりわけ、カリブ海との関係に焦点を当てて、マルティニック島への調査研究を行うとともに、エメ・セゼール、フランツ・ファノン、エドゥアール・グリッサンについて考察を行った。フランスの海外県であるマルティニックは、20世紀後半から、いわゆるクレオール文学の中心地となって、新たな文学を発信したが、それらの運動への実存思想の関わりを調査した。また、アルジェリア出身の思想家ジャック・デリダとの関係についても調査を続け、植民地と文学についても考察を行った。また、日本にそれらの動きを伝えることに貢献した加藤周一とサルトルの関係についてもあわせて調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた文献収集、資料解析の作業は順調に進行している。また、今年度は在外研究でフランスで過ごしたため、共同研究者たちとの作業も頻繁におこなうことができた。その意味で研究はおおむね順調に進展している。調査を進めるとともに、本研究課題のフィールドが予想以上に広範囲にわたることが実感され、その意味では対象を絞る必要性も感じた。その一方で、本課題の対象を明確に捕らえるためには、これまで以上に、問題をより多角的・重層的に捉える視座を築くべく、方法論を模索している。研究をさらに発展させるため、本年度は他分野の研究者とも連携し、翻訳の問題なども含めての研究を実施した。なお、2020年初めからの新型コロナウイルスの世界的な蔓延のため、最後の三ヶ月は予定していた調査は縮小せざるをえなかったため、収集した文献の分析などに集中した。 今年度の成果としては、マルティニック島への調査を通して、カリブ海への実存主義のインパクトに関する研究を深化できたことである。その一端は共同論集『クレオールの想像力 ネグリチュードから群島的思考へ』(立花英裕編)に寄稿した論考によって公開した。また、第三世界への影響が翻訳と関係している点については、パリ=ディドロ大学の坂井セシル教授との共編著『翻訳家たちの挑戦』としてまとめた。だが、最大の成果は、サルトルと20世紀文学・思想との直接・間接的交流を、『サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論』としてまとめることができることであった。本書では、プルーストからはじまり、バタイユ、バルトなどを経て、デリダにいたるまで、サルトルおよび実存主義と、その前世代および同時代の交流および影響を多角的に考察した。これは、サルトルの後世への影響を扱う本課題にとっては重要な基礎となる。そのほか、日本にサルトルを紹介した加藤周一に関する国際シンポジウムにも参加した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度以降も引き続き、基盤となる文献調査を続ける。とりわけ、キューバをはじめ、中南米の知識人との交流を中心に調査を続け、1960年のサルトルのキューバ訪問をメインテーマとする。サルトルはカストロによって招待されて、1ヶ月ほどキューバに滞在、多くの交流があったのみならず、帰国後6月から7月にかけて、キューバに関するルポルタージュを新聞に連載した。サルトルのテクストと、キューバでのサルトル受容を中心に分析を行いたい。また、同年の8月から11月には、サルトルはブラジルも訪問しており、強烈な印象を受けている。ブラジルでの交流および受容に関しても調査する予定である。しかし、第三世界の知識人へのインパクトを多角的に捉えるためには、サルトル自身と直接関わらない人物たちも対象とする必要もあろう。そのため、直接交流のあったジョルジュ・アマドなどの作家だけでなく、影響を与えたと想定される画家や音楽家(たとえば、ジョアン・ジルベルト)などにも着目したいと考えている。これらの文献調査の解析を補強するためにも、サルトルが訪れた南米への現地調査を行いたいと考えているが、新型コロナウイルスの影響で、調査旅行が実行できるかどうかは未知数である。 これまで、緊密に連絡を取りながら何度も会合やシンポジウムを行ってきたジル・フィリップ(ローザンヌ大学教授)と連携して、実存とジェンダーをテーマにした国際シンポジウムを12月に開催する予定になっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
注文していた資料が年内に納入されなかったため。
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