本年度も新型コロナウイルスが完全に収束しなかったため、現地調査を実施することはできず、資料を丹念に読み込む作業と、前年度までの研究を整理する作業が中心になったが、以下の成果を上げることができた。 1.アルジェリア戦争に関しては、サルトルやボーヴォワールが実際に介入した事例、雑誌『レ・タン・モデルヌ』の果した役割、アルジェリア戦争への不服従を支援したジャンソン機関などについて広範囲に及ぶ文献調査を行った。その結果、マグレブ系の作家たちと雑誌の関係、フランツ・ファノンを媒介としたカリブ海とアルジェリアの関係が明らかになったほか、『レ・タン・モデルヌ』の若い編集委員たちのそれぞれの立場の違いが、支援活動に与えた影響などについても新しい知見を得ることができた。 2.キューバ革命に関しては、カストロやチェ・ゲバラとの直接交流を含むキューバ滞在後のルポルタージュ『砂糖の上の嵐』の精読をとおして、同時代に発表された『弁証法的理性批判』に共通する、サルトルの革命観が明らかになった。また、南米の知識人たちのフランス文学への傾倒についても明らかにすることができた。さらに、1971年のパディージャ事件での知識人弾圧の問題へのサルトルの対応を検討することで、知識人問題や共産党との関係との関係もより明確になった。 3.サルトルのキューバ革命への関わりや、アルジェリア戦争の支援などが、日本でリアルタイムで報じられ、それが多くの知識人に影響を与えたことが、当時の日本の新聞雑誌を精査することで明らかになった。とりわけ、加藤周一、鈴木道彦、淡徳三郎といったサルトルにもゆかりがあり、その邦訳に関わっている人物が中心となっていることが判明した。 以上については、複数の国際会議および論文・書籍を通して公開した。
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