研究課題
コロナ禍で、海外渡航ができないなど大幅な制限を受け、当初の計画通りに研究を進めるのは困難を極めた。そうした中2021年度は、言語実験的なドイツ現代詩のうち(1)ウリポ詩人パスティオールと(2)転換期東ドイツのヒルビッヒに重点を置いた。(1)マルバッハ文学資料館で収集してあった手稿や創作メモなど一次資料を手がかりにして、遺稿詩集『シュペックトゥルム(スペクトラム/「脂肪塔」)』を中心に、ルーマニア=ドイツ人詩人オスカー・パスティオールの作品ににかすかに残るソ連収容所(グラーク)体験の痕跡を探す作業を行ない、この詩人をモデルとしたノーベル賞作家ヘルタ・ミュラーの小説『息のブランコ』と照らし合わせて解読した。その上で、とりわけ、オーストリアの言語実験的な前衛詩人エルンスト・ヤンドルの「表層訳」という音訳の方法の精緻化に集中的に取り組んで、本歌取りにも似たオリジナル作品に寄生して意味を変容させていくパラサイト的な手法をパスティオール独自のものとして炙り出して、言語遊戯的な詩の中に暗示的な形でグラーク移送体験を織り込んだ詩人の独自性を浮き彫りにした。(2)東ドイツの前衛作家ヒルビッヒとブラウンの工業的風景詩を東ドイツ建国期の楽観的な時代からの変容として論じた。研究成果としては、(1)は論文「オスカー・パスティオールとヘルタ・ミュラーのラーゲリ」として『早稲田ブレッター』 29号に、(2)は論文「>des letzten tagebaus sumpfiger wunde<. Zur Poetologie der ausradierten Landschaft in der Lyrik von Wolfgang Hilbig und Volker Braun」として独仏の研究者の編纂する論集『Wolfgang Hilbigs Lyrik』(Berlin 2021) に発表した。
3: やや遅れている
Covid19の世界的蔓延により当初計画していたドイツ語圏のアーカイヴでの資料調査も研究者との交流もかなわなかったため。
Covid-19感染症対策による制約が徐々に解除されてきて正常化してきているので、夏以降には海外渡航して研究の遅れを取り戻す方針である。
Covid-19感染症蔓延による海外渡航計画の断念による。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
早稲田ブレッター
巻: 29 ページ: 7-33
Banoun, Terrisse, Arlaud und Pabst (Hg.): Wolfgang Hilbigs Lyrik. Eine Werkexpedition. Berlin (Verbrecher Verlag) 2021
巻: 0 ページ: 187-208