今年度は、過去2年間にパンデミックによる制限のためにできなかった資料の調査や研究者との対面での意見交換を進めた。成果は、国内外で口頭発表した。 6月に名古屋外国語大学で行われたクラクフのガリツィア博物館の移動展「リフカの日記」の関連シンポジウムでは、ウーチ・ゲットーを撮影した3人の写真家とその写真について報告した。これは日本でウーチ・ゲットーの写真について本格的に紹介する初の発表である。 8月には、ワシントンDCのUSホロコースト博物館で「ホロコーストとアジア」ワークショップが対面で行われる予定だったが、最終的にオンラインとなり、2週間、連日、欧米、アジア拠点の20名近くの参加者とともに報告・議論を重ねた。日本におけるホロコースト受容や政治利用が、国際的な記憶研究やアジア史研究で注目を集めていることがわかった。このワークショップを機に、ホロコーストや記憶という共通のテーマを持つ欧米や東アジアのアジア研究者とネットワーク構築できたことも大きな成果となった。また、ワルシャワのユダヤ史博物館で開かれたポーランドの画家ミェチスワフ・ヴェイマンの「ダンサーズ」シリーズ展に関連し、博物館の招聘により、オンラインでこの連作をワルシャワ・ゲットー蜂起の文脈で読み解く講演を行った。 2~3月には上述ワークショップのフォローアップとして、USホロコースト博物館の招聘を受け、博物館とそのアーカイヴのシャペルセンターで、パンデミック中は許可がおりなかったカラースライドや写真アルバムの現物調査を行い、マウント等に書き込まれたキャプションやアルバム上の写真の配列から浮かぶ物語、イメージ細部の調査を進めた。3月末には、USホロコースト博物館アウトリーチプログラムの一環として、アメリカとカナダの大学生向けに、ホロコーストや原爆のカラー写真の持つ意味について講義を行った。
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