研究課題/領域番号 |
18K00466
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
森 尚也 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80166363)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベケット / ライプニッツ / 政治的想像力 / モナド / 共約不能性 / ゲーリンクス / クザーヌス / 形而上学的想像力 |
研究実績の概要 |
サミュエル・ベケットにおける運動論の一端として、昨年9月プラハで開催されたシンポジウム「ベケットとテクノロジー」で、筆者はベケットの身体的運動のなかでももっとも幾何学的、数学的運動を展開する『クワッド』(1981)の分析をした。ベケットはテレビ、ラジオなど音声や映像メディアを表現手段としてテクノロジーの可能性を追求しているが、形而上学的問題も同時に追求している。むしろテクノロジーよりも形而上学的問題の追求が、作品の核心にあった。その一例が、『クワッド』である。音と光と身体の微細な変化と完璧な同調運動を求めたベケットだが、当時のテクノロジーではそれが実現できないことがわかり計画を断念する羽目に至る。そのとき彼が制作ノートに記した言葉が「ドラマ化されたタブー」(RUL MS2100, 1981)であり、本発表(“Technology and Metaphysics: Decomposing the 'Dramatized Taboo' in Quad" )は謎とされてきたこの言葉に一つの答えを見出すものである。 また昨年10月にはiASIL Japanのベケット・シンポジウム“Samuel Beckett and the Imagination of the Postcatastrophe”において、ベケットの生死を超えた不思議な運動の背後にライプニッツへの批判と共感が混交していることを指摘した。とくに第二次大戦中や戦後のベケットのテクストには、ライプニッツ予定調和批判が頻出するのである。 ベケット研究においても、エミリー・モラン『サミュエル・ベケットの政治的想像力』という画期的な研究書が出て、これまで政治とは無縁のように描かれてきたベケット像を書き換えた。筆者は、モランの研究もふまえたうえで、さらにベケットにおける形而上学的想像力についても考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年9月のプラハでのシンポジウム、10月の東京でのシンポジウムで二度の発表をすることにより、運動をキーワードとするベケット論の基礎がある程度できた。また二本の発表論文はともに出版にむけて英語論文にする予定である。どちらも推敲を通じて、ベケットによる形而上学的想像力が、その多くをライプニッツに負っていることを明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、ベケット文学における運動のタイプ(身体、イメージ、流動)を意識しつつ、ドゥルーズのベケット論とエミリー・モランの政治的想像力を踏まえて、持論を展開していく予定である。 エミリー・モランによる『サミュエル・ベケットの政治的想像力』は、これまでのベケット研究の枠を打ち抜くもので、膨大な歴史的コンテクストの資料を踏まえた上での、ベケットのテクストの緻密な解読には大いに啓発された。今後の研究はこの書を無視しては不可能だとさえいえる。筆者が追求しているベケットにおけるライプニッツを中心とする形而上学的想像力も、政治的想像力とどのように関係するのかを明らかにしなければならない。むしろエミリー・モランの政治的解読を踏まえることによって、筆者の形而上学的想像力の意味が明確になるようにも思われる。 その進捗を、2019年の国内外の学会を視野にいれて発表していきたい。またベケット1930年代のノートを再確認しに、トリニティ・カレッジ・ダブリンへ計画中である。これにより、形而上学的想像力の具体的例を実証的に示す。 以上のような予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1万円未満での有効な消耗品等の使い道が見つからなかったため。
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