研究課題/領域番号 |
18K00466
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
森 尚也 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80166363)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ベケット / ライプニッツ / モナド / 無窓性 / anti-catastrophe / sealed vessels |
研究実績の概要 |
令和4年度もコロナ禍で海外での草稿研究を果たすことはできなかったが、英語論文'Beckett’s Monadology and the Anti-Catastrophic Aesthetics' (Samuel Beckett and Catastrophe, Palgrave MacMillan, 2023)を出版することはできた。これは2018年(平成30年)のIASIL JAPANでのベケット・シンポジウムでの発表を発展させたもので、ベケット作品がライプニッツのモナドロジーの枠組みをいかにその根底に活かしているかを示すものとなった。ベケット自身が『勝負の終わり』の演出家アラン・シュナイダーに語った「カタストロフィの不可能性」をキーワードに、その終わりそうで終わりのない形式には、始まりも終わりもないモナド、運動を続けるモナドの概念が潜んでいることを指摘した。 「我々が誕生と呼ぶものは展開と成長であり、我々が死と呼ぶものは包み込みと減少である」というライプニッツの『モナドロジー』に見られる概念は、ベケットの文学作品においては、さまざまな変容を見せる。「いつ死んだか分からない」、「生まれる前におれはあきらめた」などの一連のテクストは、生と死の境目を越境する主体が語りの中心にいる。 すべてを内包するモナドは、他者との交通手段を持たない。その特性は小説であれ戯曲であれ、ベケットの主人公たちのコミュニケーションの不可能性に表象されている。さらに反復する身体的運動と反復する言語・イメージは、ライプニッツのすべては予め決められているという予定調和の枠組みを反映しつつも、それを内から破綻させる試みもある。そこには、ベケット自身がまっただ中にいた第二次世界大戦、ホロコーストという人類史上大きな事件が影響をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体的には順調であるが、コロナ禍で海外出張ができず、英国レディング大学とアイルランドのトリニティ・カレッジ・ダブリンにある草稿やノートでまだ確認できないことがある。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度も、英国レディング大学とアイルランドのトリニティ・カレッジ・ダブリンでの草稿研究をぜひ続けたいと考えている。またベケットにおける運動のうち、身体的運動については"Beckett and Technology," Edinburgh University Press、2021年(令和3年)に掲載した論文で書いたので、心的運動と流動についての論文執筆を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、令和4年度も海外でのベケット草稿研究や学会発表ができなかったことによる。令和5年度は過去3年できなかった海外出張を実現し、英国レディング大学やアイルランドのトリニティ・カレッジ・ダブリン図書館でのベケット資料の研究をする為の費用として使用予定である。
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備考 |
[学会発表Web](1)Project 22 Ulysses ジョイス『ユリシーズ』出版100周年記念プロジェクト。2022年11月18日、第20回「ベケットのアイルランド」を発表。 [学会発表Web](2) Beckett at Reading2022年11月4日-5日レディング大学でベケット・アーカイヴ50周年記念大会。日本ベケット研究会も招かれ、録画で参加。研究会を代表し木内久美子と森が担当。
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