研究課題/領域番号 |
18K00467
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森田 直子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (40295118)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 19世紀フランス / 絵物語 / 旅 |
研究実績の概要 |
本研究は、1830年代から19世紀末まで(映画の出現、子ども向け絵物語の出現以前)の長篇絵物語および物語的構造を含むカリカチュア、特にフランス語圏を対象として、絵物語がなぜ旅・交通をテーマとして表現技法を発達させたかを多面的に考察するものである。 絵物語は、社会諷刺と連載小説の中間領域として(1)典型人物(アンチヒーロー、愚かな面を持つ)の諷刺、(2)絵と文が相互に作用する語り・レイアウトを利用した時間・空間の修辞的表現の2つが可能なメディアであり、旅・冒険はこのメディアの特徴を最大限に生かすことができる題材である。 2019年度には、特に1830年代以降のフランス諷刺新聞における絵物語フォーマットの発展について、カム、ギュスターヴ・ドレらによる創作に焦点を当てて研究した。とりわけアルプス観光の諷刺をモチーフにし、コマ割り形式ではない長篇漫画のフォーマットを試みたギュスターヴ・ドレの長篇絵物語『物見遊山の愉快と不愉快』(1851)と『ジュルナル・プール・リール』(1852)掲載の見開き2ページの短篇「モン・ブラン登頂」、各種馬車や乗合馬車、蒸気船や列車など、さまざまな交通機関の身体感覚をモチーフとした、カムの『パリから南アメリカへ』(1845)、テプフェールへのオマージュをちりばめつつ、さらに近代化した各種交通機関を物語に取り込んだレオンス・プチ『べトン氏の不愉快な冒険』(1868)を扱った。これらの絵物語は、実際にはトラブルやトラウマも多い同時代の旅の新風俗を、滑稽旅物語の伝統と接続させると同時に、語りやレイアウトの面で新しい表現技法を試みたものである。工業化と帝国主義化の進む、道しるべのない未知の世界との出会いの感覚が、主人公の愚かなふるまいを通して描かれているのを確認することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度には、おおよそ計画通りに研究を進めることができた。具体的には、ヨーロッパにおける観光文化の展開を背景とした、テプフェールの創作活動における徒歩旅行、交通機関のテーマの位置づけ(観光旅行とツーリスト批判の言説、交通機関の経験や身体感覚の表現)、漫画と実録旅行記との相関関係、またテプフェール以後のフランス諷刺新聞における絵物語フォーマットの探求を担ったカム、ギュスタヴ・ドレ、レオンス・プチらの絵物語の中の旅・交通のテーマと表現手法について、研究発表や論文投稿を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
絵物語フォーマットの普及と旅・交通の文化の関係をさぐるうえで、交通機関の経験や身体感覚が生み出した漫画メディア固有の表現技法の展開についてはさらに調査を続ける。今後は、アンチヒーローの演出と実在モデルのキャラクター化などの主題についても考察を進めていく。また、昨年度の研究発表において得られた知見として、戦争や植民地の表象と旅のテーマとの関係の重要性に指摘を受けたため、本研究の枠内としても、また本研究終了後の継続課題としても念頭におく。
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