本研究では、19世紀フランスの物語漫画がなぜ旅・交通をテーマとして発達したかを多面的に考察した。まず、物語漫画の先駆者スイス人R.テプフェールが、単に旅をテーマとするだけでなく、移動のスピード感、追跡場面、夢の中の旅という入れ子構造など、多くの技法を生み出したことを示した。次に、その影響を受けたフランスの物語漫画について、馬車、蒸気船や列車などに乗る身体感覚を表現したカム、アルプス観光を諷刺したギュスターヴ・ドレ、第二帝政期フランスの交通を物語に取り込んだレオンス・プティの作品を調査した。滑稽な旅物語に工業化・都市化する社会への不安が描きこまれた結果、漫画独自の表現として結実したのを確認した。
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