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2019 年度 実施状況報告書

テクスト分析を用いた戦後ドイツ歴史論争の再検討

研究課題

研究課題/領域番号 18K00468
研究機関山形大学

研究代表者

渡辺 将尚  山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (90332056)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードフィッシャー論争 / 第1次大戦 / 戦後ドイツ / 戦争責任
研究実績の概要

戦後ドイツにおいて重要である3つの歴史論争のうち,今年度は1960年代に,第1次大戦について激しい議論が繰り広げられた「フィッシャー論争」の分析を行った。この論争は,当時のドイツ政府は初めから戦争を望んでおり,その口実を探していたとするフィッシャーの論文が発端となっているが,報告者はその論文に異を唱えた複数の歴史学者(特にゲルハルト・リッターとハンス・ヘルツフェルト)の言説に着目し,彼らの主張の背後にある思考をあぶり出すことを試みた。
報告者が考察の出発点としたのは,反フィッシャー派の論客の多くに共通する,「当時のドイツには,英仏に対抗できるほどの軍事力はなく,戦争に踏み切ってしまったのは,情勢に対する判断の誤りがあったためである」という主張である。しかし,上に名を挙げたリッターもヘルツフェルトも,兵士として第1次大戦に参戦した経験を持つ。その彼らが,自らが所属した軍が初めから勝てる見込みのないほど脆弱であり,しかも戦争遂行の原因が計算違いであったなどという主張をすることがなぜ可能なのだろうか。
既存の研究においては,反フィッシャー派の論客たちは,時の宰相ベートマン=ホルヴェークを擁護していると解釈されてきた。しかし本研究では,たしかに反フィッシャー派は,宰相に戦争遂行への責任はないことを証明しようとしているが,完全に彼を擁護しているわけではないことを明らかにした(本研究では,単に責任がないことを示す「免責」と,その立場を代弁することまでを含む「擁護」を明確に区別して使用した)。また,リッターとヘルツフェルトのテクストの詳細な分析から,彼らがベートマン=ホルヴェークを擁護できないのは,軍部や民衆の圧力に屈し,自らの主張を通せず政策も実現できなかった弱い宰相の立場を否定的に見る思考があったためであることも明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

3つの歴史論争を3年間で分析するというのが,本研究全体の目標であるが,2年を経過し,2つ目の論争まで分析を終え,2020年3月末日締め切りの雑誌に論文を投稿することができた。その意味では,当初の計画通りに進んでいると言える。しかし,欧州における新型コロナウィルスの拡大により,3月に計画していたドイツ出張を中止せざるを得なかった。この出張においては,最終年度(2020年度)の研究対象である「ゴールドハーゲン論争」の第1次文献収集を行う予定であったため,今後の研究で遅延が生じる可能性がある。

今後の研究の推進方策

3月に計画していたドイツ出張の代替として,東京本館よりも多数のドイツ語による書籍を所蔵する「国立国会図書館・関西館」で資料収集を行い,3月末日締め切りの論文において必要な最低限の文献は揃えることができた。ドイツの国立図書館で収集できる書籍と,版および出版年まで同一のものを収集することはほぼ不可能であるが,直接赴くことができなければ,相互貸借等の手段を用いるなど,当面国内の資源を最大限に活用して研究を遂行していくことになると思われる。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウィルスのため,3月のドイツ出張を中止し,「国立国会図書館・関西館」での資料収集に切り替えざるを得なかった。また,その残額で4冊の図書の注文を行ったが,そのうちの1冊が年度内に到着しなかったため。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] 「抑圧」されたアイデンティティ ―「フィッシャー論争」における反フィッシャー派の論点を中心に2020

    • 著者名/発表者名
      渡辺将尚
    • 雑誌名

      ドイツ文学論集

      巻: 53 ページ: 未定

    • 査読あり / オープンアクセス

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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