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2020 年度 実施状況報告書

テクスト分析を用いた戦後ドイツ歴史論争の再検討

研究課題

研究課題/領域番号 18K00468
研究機関山形大学

研究代表者

渡辺 将尚  山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (90332056)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワードナチズム / ホロコースト / 戦後ドイツ / 戦争責任論
研究実績の概要

本研究が対象とする戦後ドイツの3つの歴史論争のうち,当該年度は1996年の「ゴールドハーゲン論争」を取り上げた。この論争は,反ユダヤ主義は19世紀初頭からドイツの地に根付いており,ヒトラーは単にそれが爆発するきっかけを与えたに過ぎないとするゴールドハーゲンの主張に,歴史学者を中心とする数多くの知識人たちが激しい反論を加えたことによって生じたものである。
報告者はそのうち,ハンス・モムゼンおよびエーバーハルト・イェッケルという2人の著名な歴史学者に注目した。彼らには,このちょうど10年前の西ドイツに起こった「歴史家論争」に中心的な論客として参画し,ナチによるホロコーストはスターリンの粛清の単なるコピーであるとするノルテの主張を批判し,何ものとも比較し得ない「ホロコーストの一回性」を改めて強調したという共通点がある。
「ゴールドハーゲン論争」でも,彼らの主張は基本的に変わらない。なぜなら,ホロコーストの起源を19世紀の諸事情に探ることもまた,他の事象と比較するという意味で,ノルテらのスタンスと何ら変わるところがないからである。
しかし,「歴史家論争」と「ゴールドハーゲン論争」の間の10年で,彼らの主張はわずかに変化している。たとえばモムゼンは,「ゴールドハーゲン論争」において,ホロコーストに対してもはや「一回性」という言葉を使わず,一貫して「新しい形式」と呼んでいる。
この変化について報告者は,両論争間に起こった東欧ブロックの崩壊,東西両ドイツの再統一等の歴史的大変革が,ナチズムの捉え方に影響を与えたのではないかとの仮説のもと,それを裏付けるべく検証を進めているところである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

当該年度は,ドイツ国立図書館,および日本国内でその代替として,報告者にとってもっとも有効である国立国会図書館(関西館)への出張を一度も行うことができなかったため,扱える資料の数は圧倒的に不足している。
しかしそれでも,「やや遅れている」と「やや」を付けて評価したのは,これまでどの先行研究でも取り上げられていないモムゼンのインタビュー(英語)を発見・入手し,そこにも「新しい形式」という文言が複数回使用されていることを見出すに至ったからである。このインタビュー記事は,上記「研究実績の概要」に記した仮説を検証するのに大いに役立つものであり,令和3年度中にある程度の成果を,何らかの形で公表できるものと予想している。

今後の研究の推進方策

ドイツでの資料収集は,現時点での日本国内およびドイツ・ヨーロッパの感染状況を考慮すれば,実現の可能性がかなり低いと予想される。したがって令和3年度は,具体的なタイミングおよび本務校(山形市)からのルート・手段・経由地などについて綿密な計画を立て,国立国会図書館(関西館)を適切に,かつ効果的に利用できるよう努めたい。
それと並行して,新年度は英語による文献の収集に力を入れたい。これまで報告者は,テクストの厳密な読解を行うために,一次文献に関しては原語(ドイツ語)による収集を続けてきた。しかし,上記「現在までの進捗状況」に記した通り,ドイツ語から英語に翻訳された文献,あるいはドイツ人自身が英語で発信した文献にまで範囲を広げれば,日本国内で収集できる文献の幅が格段に広がる。たとえば,「新しい形式」(ドイツ語はeine neue Form)に対応する英語は,上記インタビュー記事ではa new elementないしはa new qualityであり,多少の相違はあるものの,この程度であれば,ホロコーストに関して同一のスタンスを表明したテクストと見て,大きな誤差はないものと考えられる。
同一著者のドイツ語文献と英語翻訳文献を本当に同列に置けるかは,今後なお検証が必要であるが,新型ウィルス下の新たなアプローチの仕方としてまずはこの方法を取り入れて実践してみたい。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナ・ウィルスにより,ドイツ出張および国内出張がほとんどできず,また国外から取り寄せた書籍も大幅な遅延が生じ,結局はキャンセル扱いとなる事態が複数あったため,当初予算を消化することができなかった。本課題は,当初計画で令和2年度が最終年度であったが,申請の結果,延長が認められたため,令和3年度に新たに配分される助成金はない。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] 抑圧されたアイデンティティ―反フィッシャー論者の言説から見た「フィッシャー論争」2020

    • 著者名/発表者名
      渡辺将尚
    • 雑誌名

      ドイツ文学論集

      巻: 53 ページ: 21-35

    • 査読あり / オープンアクセス

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公開日: 2021-12-27  

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