研究課題/領域番号 |
18K00471
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 あえか 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80317289)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 近代天文学 / 月面図 / アレクサンダー・フォン・フンボルト / ゲーテ / 田中舘愛橘 / トビアス・マイヤー / ガウス |
研究実績の概要 |
計画通り、早速ゲーテ時代の天文学および測地学の資料収集と分析に着手、オイラーを起点とする「地球の姿そのものから、内部への視点の変化」を追う過程で、19世紀末に始まった国際共同緯度観測網に注目し、ドイツとも縁の深い田中舘愛橘および木村榮について調査を進めた。事前に担当者と打ち合わせの上、4月末に奥州市に赴き、国立天文台・水沢および同敷地内の奥州宇宙遊学館を見学・資料を収集。この岩手出張までの成果は、6月上旬の国土地理院報告会の講演に反映させ、入手した写真や図版を多用した。講演の概要については、補足・改稿を加え、専攻紀要にも論文としてまとめた。二戸市の田中舘記念館からも資料を郵送でご提供いただいたが、2019年3月には実際に二戸市に赴き、同館をはじめとした関連施設を見学・調査した。 2018年8月および2019年3月にはドイツ・ヴァイマルのアンナ・アマーリア公妃図書館およびゲーテ博物館を中心に調査を行い、ゲーテと地図(測地学および鉱物学)に関する資料を収集。ゲーテが仕えたヴァイマル公カール・アウグストおよびその孫カール・アレクサンダー大公と軍事図書館の関係および当時の欧州における日本地図に関する成果の一部は、8月末のゲーテ=シラー文書館での招待講演(ドイツ語)で発表し、好評を得た。 またゲーテが用いた月面図については、ドイツ・マールバッハやゲッティンゲンで収集したトビアス・マイヤーに関する資料も読みこみ、G.Ch.リヒテンベルク協会の刊行する『年鑑 Jahrbuch』にドイツを中心とした月面図の歴史と当時(江戸時代)の日本の天体観測との比較を行った論文をドイツ語で寄稿した。編集作業の関係で刊行がやや遅れているが、2019年中には刊行の予定である。 また当初から目標に掲げている、本研究課題の成果を単著にまとめる作業も視野に入れ、執筆の準備を並行して進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲーテ所蔵の天文学・地理学・地学文献については、ちょうどヴァイマルで同コレクションのデジタル化プロジェクトが進んでおり、担当者と活発な情報交換を行いながら、貴重資料の閲覧・整理・分析を進めた。特に月面図・月の観測については複数の歴史的資料を閲覧できたので、これからこれらの資料の位置づけ・関連性を明らかにしていく必要がある。ゲーテと同時代人にあたるガウスやA.v.フンボルトの測地学分野における役割・功績についても、近年、複数の研究書がドイツ語圏で刊行されており、入手済みの新資料に出来るだけ早く目を通す必要がある。なお、当初予定していた印刷業者ベルトゥーフと後継者フロリープの書簡については、まだ着手できていないが、概要は把握している。 国内調査については研究開始時、田中舘愛橘について調査する必要を考えていなかったが、ゲーテ時代からの天文学の歴史や広がりを把握していくうえで、もう少し踏み込んで調査する必要があるようだ。国立天文台・水沢および二戸の田中舘記念館所蔵のドイツ語関連資料はもとより、国土地理院などの国内関連施設の協力や理解を得て、必要な資料も収集できているので、おおむね順調だと考えている。 他方、この1年で本研究課題について、さまざまなアプローチの可能性が見つかり、また多様な資料が入手できたため、限られた時間を有効かつ効率的に用いて整理・分析し、最適な形でまとめていくことが次年度の課題になると認識している。国内で知られていないドイツ語圏の研究動向を視野に入れつつ(もちろん重要なものは紹介しながら)、ゲーテの作品が成立した科学史的背景や同時代の日本の状況を比較・考察する方法をとることで、独創的なアプローチを試みたい。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の2019年度は、ゲーテ時代の星図調査に重点を置きつつ、前年度に収集した資料の読み込み・整理・分析を続け、気象学・地理学の資料調査も進める。 具体的には2019年6月上旬に成果発表の機会があるため、それまでにゲーテと気象学・測地学を中心に、これまで集めた日・独語両方の資料を一度整理し、概観を把握したいと考えている。並行して、7月上旬までにゲーテと月面観測について、月面図に関する論考(リヒテンベルク協会『年鑑』刊行準備中)では書ききれなかった科学史的背景や当時の議論に注目し、ドイツ語論文にまとめたい。 なお国内出張については、ゲーテ時代の日本における天文学比較を行うため、当初から予定の関西(特に11月リニューアルオープン予定の神戸市立博物館)に加え、北陸・富山県内の複数の博物館での見学・調査を計画中。また必要に応じて奥州市(国立天文台・水沢)と二戸市(田中舘記念館ほか)での再調査も検討している。あわせて近距離圏の三鷹市の国立天文台附属図書館およびつくば市の国土地理院での調査も予定している。なお、国土地理院は所蔵資料が貴重かつ豊富なため、近郊ではあるが、泊りがけでの集中調査が効率的と思われる。平日に日程を調整して実施したい。ただし江戸の天文学との比較研究は、時間的制約からも限界を見極める必要があり、どこまで今回調査を行うか、専門家の意見も採りいれながら、慎重に判断したい。 ゲーテと天文学・地学の関係については、日本語単著の形で公表することを念頭におき、準備段階にあたる資料の分析・整理を行いながら、夏から秋にかけて実際の執筆に着手したいと考えている。すでに入手した資料に目を通し、計画的かつ効率よくまとめていくことが目下の最大の課題である。うまく時間を管理しながら、ドイツ語圏資料も駆使し、最先端のゲーテ研究成果をあわせて紹介できるような研究書にまとめあげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は書籍等資料への支出を予想して物品費を多く見積もっていたが、(1)研究施設・図書館等で利用申請を行った資料に予想より貴重書の割合が少なかったこと、また(2)専門研究者間で本課題に関する学術書の献本が複数あったことから、支出を抑えることができた。また研究に必須な資料の入手を優先したため、一次文献等の閲覧に不可欠な国内外旅費の支出が予定よりやや増える形になった。デジタルカメラやPCについてはむしろ2年目以降に必要性が高まると考え、購入を急がず、用途にあった機種を慎重に検討中である。他方、旅費が増えたのは、(1)国内出張は国立天文台・水沢だけを考えていたが、その延長として二戸への出張が加わったため、(2)海外出張については渡航シーズン(特に夏期休暇中)によって若干航空費の変動が予想よりも大きかったことが挙げられる。 とはいえ基本的に大きな変更や研究への影響はなく、二年目に持ち越した使用金は、まずデジタルカメラ購入に、また関西方面のみ計画していた国内資料調査にもう1件の北陸方面を加え、その出張費に充てる予定である。
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