当初3年計画としていた本課題の遂行は2020年春からのCOVID-19に伴う欧州都市ロックダウン、さらに2022年春以降はウクライナ情勢の変化もあり、ドイツへの渡航・同国内での調査が難しくなったことにより、研究計画の遅滞・大きな変更を余儀なくされた。 しかしながらドイツの同僚、特にKlassik Stiftung Weimar(SWK)の研究者たちとオンラインを活用した情報交換を継続し、2022年春には規模を縮小し、ハイブリッドによる「ゲーテと自然科学」に関する日独二国間セミナーをヴァイマルで開催、2023年春にはハイデルベルクの学術出版社Winterから、その成果をまとめた論文集(全文ドイツ語、日本語要約付)を編纂・刊行した。本論文集には2022年3月発表のゲーテおよびクラドニの彗星・隕石に関する拙論も所収。 2022年度は自然科学系や哲学(美学)など専門の異なる分野での発表や講演の機会を得て、ゲーテ研究者以外の専門家との情報交換を通して、自然研究者としてのゲーテの視線をより多角的かつ深く分析することができた。また本郷・東大附属図書館所蔵の伊能忠敬関連資料、特に『測地原圖』の調査に参加し、ゲーテと同時代の江戸の測量・地図製作について、伊能忠敬研究会の皆様から多くの示唆を得た。さらに同館がゲーテ自署付書簡を一通所蔵することも確認でき、デジタル・アーカイブ公開に協力するとともに、現在ヴァイマルのゲーテ・シラー文書館を中心に進行している『ゲーテ書簡集』編集チームとも連携し、日本国内に現存する他のゲーテ・オリジナル書簡調査も行い、その結果を論文として公表した。 2020年11月末に刊行した『教養の近代測地学』は中間報告の位置づけであったが、2023年5月現在、これまで行った資料調査の分析・整理をもとに、計5年に及んだ本課題の総括として日本語著作を刊行すべく、執筆準備を進めている。
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