研究課題/領域番号 |
18K00473
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
早川 文人 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (30724398)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ラジオ放送 / 放送劇 / ウィーン / 文化政策 / RAVAG / ヘルマン・ブロッホ / ヴァルデマール・ボンゼルス |
研究実績の概要 |
本研究課題の本年度の当初の計画では,デジタル資料として公開されていない資料,とくに「ラジオ通信株式会社」(RAVAG)の文学部門長・作家であるハンス・ニュヒテルン(1896-1962)の関連文献の調査を軸に研究を進める予定であった。しかし新型肺炎感染拡大のため,計画していた独墺での調査を中止せざるをえなかったので,当該時代の文献の整理と分析,墺国立図書館等で一部公開されているデジタル資料(雑誌『ラジオ・ウィーン』等)の読解と考察を研究の主軸に置いた。そのさいRAVAG文学番組に関係がある文学者,文学作品をリスト化をすすめる過程において,これまで看過してきた独墺の作家や作品にも意識的に注意を向け,例えば独作家ヴァルデマール・ボンゼルス(1881-1952)や墺作家ルドルフ・ブルングラーバー(1901-1960)に着目した。ボンゼルスのベストセラー小説『みつばちマーヤの冒険』はRAVAGで1926年にはラジオ劇にされていた。しかしそのラジオ劇の放送回数は意外にも少なかった。ボンゼルスのような独作家の墺メディアにおける受容状況の分析は独墺関係の政治的メディア文化史における力学を測る試金石になりうるという認識を得た。また墺ユダヤ系作家ヘルマン・ブロッホ(1886-1951)が交流のあったブルングラーバーのRAVAGにおける1938年1月30日の自作朗読の放送にさいし,『ラジオ・ウィーン』(1938年18号)にブルングラーバーの紹介文を寄せていたことに気がついた。社会民主党の支持者であったブルングラーバーも朗読の放送が許されていた点はRAVAGの政治バランスの指標となろう。加えて両者の関係は,ブロッホ研究においても新たな視座を与えるものである。これら成果の一部については,共著の文学史の記述(『ドイツ文学の道しるべ』:執筆担当項目ヘルマン・ブロッホ『ウェルギリウスの死』,ヴァルデマール・ボンゼルス『みつばちマーヤの冒険』,2021)に反映されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗状況にやや遅れが生じた原因は主に以下の2点が挙げられる。 まず新型肺炎感染拡大のため,オースリア・ドイツでの現地調査ができなかったので,デジタル化された文献(『ラジオ・ウィーン』)を主に対象としながら分析と考察を進めた。しかし研究構想の核心部分には,デジタル公開されている文献が対象になっているので,研究全体の進捗についてはやや遅れが生じたと言わざるを得ない。研究を推進するうえで必要なテクストの読解作業は進めたものの,学術的裏付けを得るための資料の確認作業が残り,個別的な成果として学会等で公表するに至らなかった。 また新型肺炎感染拡大のため,オンライン対応をはじめとした想定外の校務負担が生じ,本来予定していた研究に費やせるエフォートの割合が大幅に減少せざるを得なかった点も研究に遅れが生じることになった要因の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の核心は,海外における資料調査とその分析によって推進される。ただし新型肺炎感染症の世界的拡大の現状を鑑みて,海外図書館や公文書館で公開されているデジタル化された資料を最大限に活用することで,研究全体的な推進をカバーしつつ,感染症拡大の状況を注視しながら渡欧を計画し,現地での資料調査を進める。とくに1934-1938年に焦点をあて,RAVAG文学門長であるハンス・ニュヒテルン演出の文学番組や彼が執筆した政治的群集祝祭劇の分析を主軸としつつ,当該時代の政治・文学・(ラジオ)メディアの表象の分析と考察を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究構想当時に予定していた独墺における文献調査が新型肺炎感染拡大のため実施できなかった。国内学会,研究会においても双方向型遠隔通信を用いて参加したため,旅費が発生しなかった。そのため当初計画していた旅費が執行されず残額が生じた。 感染症が鎮静化し海外渡航が可能になった場合に,文献収集・資料調査を集中的に進められるように備えておくとともに,日本で入手可能な文献資料の収集も進めていく。また当初予定していたよりもデジタルデータの研究資料を多く扱うことになったため,それらの資料を保存管理するためのデジタル機器の整備もあわせて行う。
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