研究課題/領域番号 |
18K00475
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安川 晴基 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (60581139)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 記憶 / ドイツ / ベルリン / ホロコースト / 記念碑 / ミュージアム / 公共芸術 / 都市空間 |
研究実績の概要 |
本研究は、再統一後のドイツにおいて、ナチズムの負の記憶が、集合的次元でいかに再構築されているかをつまびらかにする。具体的には、壁崩壊を経た1990年代以降、再び首都になったベルリンに誕生した、歴史展示施設、記念碑、公共芸術をとりあげ、それらの設立の経緯、空間デザイン、そして、ベルリンという都市の記憶の景観における象徴的意味づけを調べている。 90年代以降に誕生したこれらの「想起の空間」は、統一ドイツという新たな国家の発明にともない、そのアイデンティティを基礎づけるために、新たな集合的記憶が、目下、急速に発明されていることを示している。これらの「想起の空間」は、今日のドイツの自己批判的な「想起の文化」を体現している。「想起の文化」とは、ナチズムの負の記憶を、今日のドイツの社会と政治の基本合意(民主主義・法治国家・人権の擁護・寛容)を支える資源に転換しようとする、共同想起の営みの総称である。これらの営みを通じて、今日のドイツは、自由民主主義国としての自国の政治的プロフィールを明確にすることで、内的統合を進め、それと同時に、価値共同体としてのEUとのより一層の一体化をはかっている。 当初の計画では、2021年度は、ドイツでのフィールドワークと資料収集を重点的に行なう予定だった。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大による制限のため、2020年度に引き続き、海外渡航を断念せざるを得なかった。その代わり に、昨年度は、本研究の成果を発表するために準備している単行本『想起のトポグラフィー(仮題)』(岩波書店刊行予定)の執筆に、集中的に取り組んだ。なかでも、同書の第5章に相当する「ホロコースト記念碑」についての記述を進めた。また、 再統一後のドイツ、とりわけベルリンにおける「想起の空間」の事例研究と並行して、「文化的記憶」に関する理論的研究も継続し、その成果の一部を論文としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」に述べたとおり、2021年度は、新型コロナウィルス感染拡大のため、ドイツでのフィールドワークを実施することができなかった。そのため、 必要な資料の収集にやや遅れが生じている。しかしながら、その一方で、本研究の成果を発表するために準備中の単行本『想起のトポグラフィー(仮題)』に関しては、第5章に相当する「ホロコースト記念碑」の記述を進めた。また、本研究の理論的支柱の一つをなす「文化的記憶」のコンセプトに関する研究の一環として、ヤン・アスマンの主著の一つである『文化的記憶』 (福村出版刊行予定)の翻訳作業を進めた。さらに、「文化的記憶」のコンセプトを含む「集合的記憶」論の系譜に関する論文を執筆した。この成果は論文集『古代地中海世界と文化的記憶』(周藤芳幸編、山川出版社)として発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、新型コロナウィルス感染拡大のため延期せざるをえなかった、ドイツでのフィールドワークを重点的に行ないたい。数度に分けて渡独し、とりわけ、ザールブリュッケン、ハンブルク、ベルリンでフィールドワークを行ない、資料館で関連文献を収集する予定である。 ドイツでのフィールドワークと並行して、これまでの調査結果を、引き続き、単行本の形にまとめていく。 さらに、本研究の理論的支柱をなす「文化的記憶」のコンセプトについても研究を進める。その一環として、現在翻訳作業を進めているヤ ン・アスマン著『文化的記憶』を、2022年度内に刊行する予定である。現在は、初校を待っている段階である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度にドイツでのフィールドワークを予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大により、海外渡航を延期せざるを得なかった。 (使用計画) 2022年度は、ドイツでのフィールドワークを再開し、ザールブリュッケン、ハンブルク、ベルリンで実地踏査と資料収集を行ないたい。その旅費に前年度の残余分を充当する。
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