研究課題/領域番号 |
18K00477
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中畑 寛之 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (70362754)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ステファヌ・マラルメ / 文芸共同体 / 草稿研究 / 19世紀末フランス |
研究実績の概要 |
2018年度は専ら、本研究の基となる諸資料を整理し直すことに費やされることとなった。具体的には、1.『音楽と文芸』として出版されたイギリスでの講演および評論「有益なる遠出」の詳細な読み直し、2. フィガロ紙に発表された「文学基金」を巡る諸資料の収集、3. 研究代表者が所有する「文学基金」草稿の転写 transcription が主なものである。 1. については、詳細な註や解説を附したかたちでの翻訳出版を模索しており、最終年度までには実現したいと考えている。本研究のすべてがそこに注力されることになるはずだ。 2. に関しては、マラルメ自らが依頼し収集し、ヴァルヴァンの記念館に保管されている切抜きを含め、『書簡集』第7巻付録で指摘された41篇の「反応」をひとつずつ確認しているところである。この資料も、最終年度までに公表できるように作業を進めたい。また、「文学基金」を巡って企図された「アンケート」(大々的には実現はされず)についても、書簡を中心に考察を重ねたが、論文にまとめるまでには至ってない。代わりに、マラルメの提言に対するクレマンソー宛書簡を含む幾つかの新資料を「落ち穂拾いの記 ー マラルメ未刊行資料 (1)」として『EBOK』第31号に掲載する(編集の都合で、まだ未完)。本研究は「文学基金」というテクストを中心に、詩人の考える「文芸共同体」のあり方を明らかにすることを目指している。マラルメが自宅で催していた「火曜会」がそのひとつのモデルになるだろうが、この点で、ベルナール・テセードル『起源の物語 クールベの《世界の起源》をめぐって』(水声社)を翻訳出版できたことは、パリにおける芸術家たちの実態を理解するうえで、有益な補助線を引くことになった。 3.「転写」は、下書き状態の原稿ゆえに、なかなか解読が進まず、苦戦しているのが実情である。他の草稿群とも見比べつつ、解読を完成させたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最大の理由は、「文学基金」草稿の読解にかなり苦労していることにある。そのため、「資料をデジタル画像化したうえで、そのデータから特定の形を抽出するパターン認識の技術を応用することによって、手書き文字(マニュスクリ)の科学的な解読法」については、まったく目処が立っていない。ホームページのリニューアルも進んでいないばかりか、研究代表者がこれまで学術的情報等を発信してきたウェブサイト関西マラルメ研究会アルシーヴ << Mall’archives >>(Yahoo! ジオシティーズ)が運用を停止してしまった。情報発信については、早急の対応をしなければならないだろう。また、2018年度はフランスでの資料収集に充てる時間がそれほど多くは取れず、その点においても、当初の計画よりもやや遅れていると感じている。これから学内業務等により時間を取られることになるとわかっているので、図書館のリファレンスなども縦横に活用して、今後は効率良く進めていく必要がある。 『音楽と文芸』の読み直しについては、かなり詳細に行うことができた。新たな着想も見つかり、今後検討していくことになろう。翻訳出版をめざして、まずは訳文の確定、註付けを進めていきたい。 「文学基金」を巡る出版界および文学者たちの反応について、とりわけ賛否の分かれ方を当時の出版状況に位置づけつつ、また文学者たちの力関係なども踏まえて論文にまとめたかったが、今年度は関連するクレマンソー宛書簡を、マラルメに関わるその他の未発表資料とともに、提示するにとどまることになった。 しかしながら、ささやかとはいえ、詩人の交友を示す重要な資料であることもまちがいない。
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今後の研究の推進方策 |
まずは「文学基金」草稿の読解を着実に進めなければならない。マラルメのアルシーヴにおいて下書き状態の原稿はそれほど多くはないのだが、似たような状態にある草稿で閲覧可能な『アナトールの墓』や『イジチュール』などとも見比べつつ、彼の筆使いに繰り返し眼を添わせ、読み慣れていく必要があるだろう。もちろん、事態が打開できないようであれば、ティエリー・ボダンのような筆跡の専門家、そしてマラルメ研究の第一人者ベルトラン・マルシャルにも助力を仰ぐことも考えておくべきであろう。 「文学基金」に対する反応については、すでに判明している記事について、こつこつと現物を確認していくことになる。フランスでの調査に十分な時間がとれない現状においては、ガリカを活用して電子媒体での探索を行ってもよいかもしれない。出版社の側、文学者の側、またそれぞれの立ち位置によっても反応が異なるのは当然だが、マラルメの提言に対する出版界の反応を正しく理解するためにも、「フィガロ」紙に2度にわたって掲載されたアンケートのうち、それに応じた三人の出版人の言説を中心に分析を行い、論文をまとめたいと考えている。 繰り返し述べているが、『音楽と文芸』については翻訳出版を目指して、可能な限り努力する。 迅速な情報発信の観点からは、ホームページ作成は喫緊の課題となったが、各種情報の充実も含めたリニューアルとして計画するのであれば、拙速に進めるべきではないかもしれない。検討課題のひとつとしてここに記しておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、フランスでの資料調査・資料収集のために予定していた35万円だけを支出することになった。次年度使用額が生じた理由は、設備備品費・消耗品費を併せて計上していたものの、交付決定額とのあいだに差があったため、当該年度での使用は難しいと判断したからである。入手を考えていた古書資料が高額なせいもある。配分割合を考えればいいのだろうが、フランスにおける研究滞在は外国文学研究者としては欠かせないと考えており、海外旅費を優先させた。 今回、研究は始めるにあたって最低限必要な19世紀末当時の著作権問題を巡る幾つかの資料は私費で購入しており、本研究に支障はない。
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