研究課題/領域番号 |
18K00477
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中畑 寛之 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (70362754)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ステファヌ・マラルメ / 出版 / 文学場 / 書誌学 |
研究実績の概要 |
本年度は la Covid-19 の影響で感染対策や遠隔授業への対応に追われ、またフランスへの渡航も出来ず、実施計画に添った研究はまったくできなかったと言わざるを得ない。残念ながら、論文としてまとめることができたのは、ステファヌ・マラルメが1887年に上梓した『詩集』についての1本のみであった (ただし、掲載雑誌の刊行は2021年6月頃の予定)。独立評論誌社から刊行されたこの『詩集』は、詩人が清書した原稿をそのまま写真石版刷りし、わずか40部のみ売り出した大型の豪華本である (他に非買の7部あり)。論文では、現在のところ所在や書誌情報が判明している各蔵本から、破格の100フランの値をつけた『詩集』の販売状況などを推察した (当時、詩集1冊の値段は平均1フランほど。マラルメ『詩集』はバラ売りもされたが、9分冊すべてを揃えようとすると170フランになってしまう)。課題として、やはり同年に刊行された『詩と散文のアルバム』(こちらは1冊わずか15サンチーム) との関係を豪華版/普及版という在り来たりな位置づけから解放する説得的な作業仮説の構築が必要と感じている。というのも、論考では、独立評論誌社とエドゥアール・デュジャルダンの果たした役割を確認し、そのうえで1887年に刊行されたその『詩集』は「本」というよりも、いまだ「アルバム」と見做すべきことを主張したからである。 『音楽と文芸』に関しては、出版を目指しての翻訳・註付け作業を進めている。 火曜会の実態を浮かび上がらせるひとつの手段として、詩人の蔵書調査も並行して継続中である。 手書き文字(マニュスクリ)を認識させるために必要な学習データとして、研究開始当初から、マラルメの自筆書簡およびその画像の収集を続けてきた。まだまだ資料の数は不足しているが、現物が幾つか手元にあることは今後の画像処理や読み取り実験等を試みていく際にも心強い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
概要でも記したとおり、今年度は la Covid-19 への対応のため、研究環境が整わなかったばかりか、大学業務として感染対策等にかなりの時間を割かざるを得なかった。また、渡航しての資料調査などもまったく出来ず、先の見えない状況のなか対応に苦慮しているというのが正直なところである。唯一、進展があるとすれば、マラルメの自筆書簡などの現物や画像データが少しずつではあるが手元に集まってきていることかもしれない。他にはホームページのリニューアルについてはほぼ目処が立ち、本研究の終了時点には新たな << Mall'archives >> の公開を行いたいと考えている。 さて、とりわけ進捗が思わしくないのは、「文学基金」に関する自筆草稿の解読である。非常に集中と根気が要求される作業であるため、今年度は解読と筆写をほとんど進めることができなかった(遠隔授業だけが原因ではなかろうが、視力が随分と落ちてしまったのも痛い)。この草稿を読み解くことは本研究の大きな柱であり、また『音楽と文芸』翻訳に付すことになる訳者解説にも不可欠な文献であるため、次年度には改めて集中的な作業を試みる必要があるだろう。 火曜会の実態については、マラルメの蔵書データがアップデートできているので、同時代人の回想なども手掛かりに考察を深めたいと思ってはいたけれども、論文にまとめるまでには至っていない。例えば、書簡集には一度も名が挙がらないとはいえ、版画家のジャン=ルイ・フォランは確かにマラルメと交流があったことが、献本の存在などから伺えるのだが... いずれにせよ、現状に対応しつつ、可能な限り時間と余裕を作ることで対応するしかないのではないか。努力したい。
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今後の研究の推進方策 |
4月からは大学院委員の役職も解け、時間的な余裕がそれなりに増えることになるはずである。これまでの遅れを取り戻すべく、刻苦精励したいと考えている。 『音楽と文芸』の訳文と註については2021度の前期中におおよそ完成させ、後期ではそれに附す解説論文を執筆することを目指したい(一応、幻戯書房から出版の予定である)。そのためにも、翻訳と並行して、「文学基金」草稿の解読を進めなければならない。鉛筆書きの自筆稿をパソコン上で拡大しても問題のない高い解像度の画像データに変換し、パソコン上で拡大するなど工夫して解読に取り組むつもりである。また、これも先送りになってしまっていたが、詩人の提言に対し『フィガロ』紙が2度にわたって実施したアンケートを基に、出版人たち等の反応について分析し論文にまとめることで、マラルメの「文学基金」が同時代の出版界や文学界に突きつけた問題意識を炙りだすことを目指す。 しかしながら、世界的な感染拡大が終息し、フランスに行ける状況が整わない限りはいろいろと不都合もあるのは確かである。留学生はもちろん、我々研究者も渡航できるような対策を政府がしっかり打ってくれることを祈るしかない。2021年度も渡航ができなければ、研究期間の延長を少なくとも1年申請することも考えておきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は la Covid-19 の影響でフランスに渡航しての資料調査などの実施が不可能な状況であった。そのため、21年度に状況が改善されることを一縷の望みとし、またその際は少しでも長期の滞在ができるように旅費として多くを次年度の使用に廻すことにした。 2021年度はフランスでの資料調査が可能になることを期待しているが、感染状況が変わらず、渡航はあいかわらず難しいようであれば、研究期間の1年延長も考えている。
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