研究課題/領域番号 |
18K00477
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中畑 寛之 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (70362754)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マラルメ / 文芸共同体 / ボードレール / Mall'archives |
研究実績の概要 |
La Covid-19 によって海外に渡航できない状況が2年間も続くことになり、実施計画に添った研究はまったくできなかった。幸い、ボードレールの生誕200年でもあったので、本研究の余白として、エッセーを1本、研究発表を1件行うことができた。エッセーは「マラルメの「ボードレール」」と題して、季刊『びーぐる 詩の海へ』第53号:特集 生誕二百年 ボードレールの現在と未来、2021年10月、pp. 12-13 に掲載していただいた。マラルメの手沢本であったボードレール 『悪の華』第2版の姿を念頭におきながら、ボードレール-マラルメの系譜について考えを綴った短いエッセーである。1867年にボードレール が亡くなったことを知ったマラルメが友人のヴィリエ・ド・リラダンに書き送った「ボードレール が終わったところから始める」という言葉のうちにデカルトの声を聴きとることができるとすれば、このマラルメの決意もまた「文芸共同体」の理念の一端をなすものではないか。この観点を展開させて、京都大学人文科学研究所でのシンポジウムで研究発表を行った。こちらも早いうちに論文としてまとめたいと考えている。 サービス提供の終了に伴いネット上に廃墟のように残っている研究サイト Mall'archives をようやく再開することができたのは、今年度の本当にささやかな実績だろう。破損してしまったデータの修復がまだできていないものもあるが、マラルメの蔵書、マラルメの本といったこれまでの研究成果を公開するなど、今後は新たな情報発信の場としていきたい。「文学基金」について『フィガロ』紙が2度にわたって実施したアンケートも電子化したので資料のひとつとして公にする予定である。 『音楽と文芸』の翻訳に関しては、本研究の成果のひとつとして、2022年度中に幻戯書房のルリユール叢書の1冊として出版できればと思っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
La Covid-19 のため、パリのジャック・ドゥーセ文学図書館やヴァルヴァンのマラルメ記念館で一次資料の調査がずっとできていないことが大きな原因である。馴染みの古書店に顔を出せれば、店頭やネット上には挙げていない資料を見せてくれたり、有益な情報を教えてくれもするのだが、フランスに行くことのできないこのブランクは痛い。また、マラルメの自筆テクスト(主に書簡)の画像取集はまずますうまくいっているが、さまざまな理由から、入手した現物数点については実見できていないことが遅れに拍車をかけている。「文学基金」に関する自筆草稿の解読はなんとか進めているとはいえ、自分の読みだけではやや不安がある。そのため、ベルトラン・マルシャル氏やパリの自筆稿専門家に伺いを立てたいが、それも叶わないのが現状である。 結局のところ、秋の時点で今年度の渡仏は断念し、最終年度である本研究の期間の1年延長を決めたため、他の仕事にかまけてしまったせいもある。 コンピューターに手書き文字(マニュスクリ)を読み取らせる試みは、必要な学習データとして十分な画素の画像の数、なによりも現物の不足ゆえに、ほとんど進捗していない。これについては大幅な見直しが必要かもしれないが、何とか突破口を探したいと考えている。 いずれにせよ、2022年度中にフランスに渡航できるようになった場合に備えて、必要な準備だけはしっかり整えておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度中にフランスでの調査ができないという最悪の事態に備え、現状可能なものを中心に研究を進めていく。 まず第一に、少なくとも『音楽と文芸』の翻訳出版を実現すること。「文学基金」に関する自筆草稿からの新たな知見を盛り込めないとしても、しっかりとした解説とともにマラルメの思考を日本の読者に届けたい。この解説が本研究のひとつの成果となるよう努めたい。 第二に、研究サイト Mall'archives のコンテンツを充実させること。特に、火曜会の実態を側面から明らかにするために、今も詩人の蔵書データを蓄積しているが、それに加え、詩人自身の著作の献本先を調査し、人的なネットワークを相互に可視化することを試みる。これについては新・旧の『書簡集』ほかを利用し、これまで献呈本が市場に現れた際のデータを加味することで実現できると考えている。書簡集を読み直すことにもなるので、火曜会参加者の変遷などにも留意し、その実態を具体的にイメージしたうえで、火曜会についての証言を踏まえて、論考にまとめたいと思っている。 第三に、「文学基金」に対する出版人等の反応についても論文にできていないので、できれば完成させたい。 さて、「文学基金」自筆草稿の書き起こしについては現物を見てもらって適切な方(マラルメの草稿に馴れたマルシャル氏が言うまでもなく最適なのだが)に意見を聞くのが最善だが、フランスに行けない状況が続いた場合、画像を送って判断を仰ぐことも考えている。とはいえ、「読むのが難しい difficilement lisible」と言われた原稿なので、先方の負担も大きいため、断られる可能性があるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も la Covid-19 の影響でフランスに渡航しての資料調査などの実施が不可能な状況のままであった。そのため、22年度にはさすがに状況も改善されるだろうことを一縷の望みとし、9月の時点で研究期間の1年間延長を決め、助成金を使用せずに次年度にまわすことにした。それは渡仏が可能になった際には少しでも長期の滞在ができるようにと考えてのことである。研究書などは自費で購入していたので、現状、本研究において特に支障は出ていない。 なんらかの制限は残るかもしれないが、なんとか2022年度は海外渡航もできそうな状況になっているので、現地での一次資料調査などをまずはしっかり行いたいと考えている。世界状況を鑑みるに、飛行機の運賃も値上がりしており、2022年度を最終年度として当該助成金は適切に使用できると考えている。
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