研究課題/領域番号 |
18K00478
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩本 和子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (60203410)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベルギー / フランス語文学 / 言語芸術 / 移民作家 / 越境 / 文化的多層性 |
研究実績の概要 |
申請者のこれまでのベルギー・フランス語文学研究をふまえて越境性、文化的多層性に注目し、国際的・無国籍的に活躍する現代作家(外へのベクトル)と、さらに現在ベルギーで活躍が顕著化している移民系作家(外からのベクトル、非母語としてのフランス語文学、トランスナショナル性)の動向研究や作品分析を行う。その際に、言語芸術とそれに係る芸術活動(舞台芸術や都市空間・移民地区などとのかかわり)の二つの側面を相互に関連させつつ調査・考察を行う。本研究は、ベルギーのより動的で新しい文化的多層性の実態を明らかにするとともに、ケベックやフランスを中心に展開しつつある「移動文学」概念を理論的基盤としつつ、現在仏語圏文学全体で展開している「越境文学」研究に、いまだ未開拓のベルギーからの視点を導入することも目的とする。主要な作業として「移民系」(「移民」は全人口の10%、「外国人」はさらに8%を占めると言われるが、外国出身者の子孫でベルギー国籍を有する人々や長期定住者を「移民系」としておく)の芸術家に注目し、彼らがどのようなスタンスでどのようにベルギーの文化的多様性に関与しているのかを、具体的な活動や作品分析を通して明らかにする。従来のベルギー文学における<多層的ナショナリズム>と国際性に対して、移民系作家たちの創作活動や作品の持つ特徴や意味についての調査・分析を行う。今年度は、コロナ禍のために現地調査や資料収集が思うに任せなかったが、移民系芸術家の考察を進めるとともに、特に「外へのベクトル」を意識して、20世紀の作家でフランス語・オランダ語両言語で執筆しギリシャ・ラテン・ゲルマン神話に通じるジャン・レー、SF幻想小説を通してベルギーのアイデンティティを問うたマルセル・ティリー、日本とベルギーの間での自らのアイデンティティを問題化したアメリー・ノトンらの諸作品の邦訳などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、ベルギーの移民史と文化政策および移民系作家や芸術活動の背景確認と、異文化としての「差異化」のより激しいEU域外からのイスラム系作家に対象を広げてその越境性の検討を行った。現在活躍の目覚ましいケナン・ゴルグン(1977-)について論じ、トルコ系ベルギー人のフランス語作家としてのアイデンティティや起源としての民族意識、トランスナショナルな状況を明らかにした。本論文を含めて、本報告者が編者として解説執筆も担当してベルギーの移民と文化的多層性に関する領域横断的な論文集をまとめ出版することができた。 コロナ禍で現地調査や国内出張ができなかったが、その代わりにオンラインでの学術活動やデスクワークを中心に次のような活動を行うことができた。 多言語使用、あるいは無国籍的に活躍することで、「移動」やベルギー的なアイデンティティの多層性を有する現代作家の主要作品の翻訳を行い、ジャン・レー作品集は近刊、マルセル・ティリーは仕上げ段階、アメリー・ノトンは作業中である。いずれも出版社は確定しており、またベルギー・フランス語共同体政府の翻訳出版助成の可能性もある。 ベルギー・フランス語共同体学術・文化交流日本担当で京都清華大学客員研究員C.Mariage氏との共同研究の一環として、ベルギーフランス語文学翻訳プロジェクトを企画し、今後現代作家の翻訳対象を広げる予定である。またMariage 氏によるオンライン講演会を2019-20年度に計6回行い、ベルギーの作家、映画、BDなどについての意見交換を行った。 3月初旬に、ベルギー協定大学とのオンライン合同セミナーを行い、その際に芸術活動、都市計画・文化政策などの現況に関して専門家との情報共有、意見交換を行った。 ベルギー研究会(年4回)、日本ベルギー学会(年2回)の運営や発表聴取、意見交換を行った。
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今後の研究の推進方策 |
文学だけでなく諸芸術ジャンルや文化活動にかかわる作家は多く、その活動も重要である。彼らの具体的な諸作品分析を進めるとともにジャンル横断的な芸術活動を確認し、さらに移民地区や都市空間との関連の現状を調査、考察する。多様な民族共生の一手段としての芸術と都市を結びつける文化政策や活動についても合わせて確認する。これらによって、多層的アイデンティティや移動(トランスナショナル)の要素が作品や活動、さらにはベルギーの社会・文化的な創造力にどのように関連しているかを探る。そして、本研究の対象とした作家たちがベルギーの文化的多様性と芸術活動の活性化に深くかかわっていることを明らかにし、より多層的で動的なベルギーの文化的アイデンティティを新たに呈示し、脱領域的かつ文化的多様性・共存のモデルとしての可能性を示したい。 そのためにはベルギー諸都市での、移民関連の演劇作品鑑賞や芸術活動・文化政策の現状などについてのフィールドワークも必要だが、コロナ禍の継続により次年度も制約があると思われる。可能であれば現地に少しでも赴く予定にし、その他以下のように研究の推進を行う。 ・オンラインにより現地の研究者と協力して現状確認や作家との交流などを行う。 ・諸作家の作品翻訳作業を進め、解説を添えて出版する。 ・ベルギー研究会(年4回)、日本ベルギー学会(年2回)、「ベルギー学」シンポジウム(2020年から延期して2021年12月開催)にて継続して運営と研究発表、発表聴取や意見交換を行う。その他日本フランス語フランス文学会、日仏社会学会などでも関連テーマでの発表・意見交換を行う予定である。 ・大学紀要に作家・作品論などの論文を随時寄稿し発表する。『ベルギーの〈移民〉社会と文化』(2021.3)に続き、本科研費による成果として、ベルギーの「移動」文化について論文集の形でまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の継続により、2020年度に予定していた国内・海外出張費がほぼ0となった。具体的には2020年6月に予定された重慶(中国)でのベルギー人作家ジャン=フィリップ・トゥーサンを囲んでのシンポジウム(招待による発表)が中止、2020年9月と2021年3月に予定していたベルギー現地調査への渡航中止、東京や宮崎など移動を要する学会・研究会・共同研究の打ち合わせがすべてオンラインとなったために交通費が0となった。次年度については、渡航が可能になり次第、現地調査及び専門家との意見交換のために複数回のベルギーへの渡航を行いたい。また12月開催予定の「ベルギー学」シンポジウムにおいて、本科研費のテーマに即したベルギーからの研究者招聘を行う予定でその謝金や交通費に使用したい。資料・文献購入や論文集・翻訳の出版費用として、次年度予算への補填としても使いたい。
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