現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジュネーヴ図書館に収蔵されているソシュールの伝説・神話研究関連の草稿のうち、初年度に資料番号Ms. fr. 3958(1,063ファイル)およびMs. fr. 3959(1,056ファイル)をTIF形式で入手した。2年目は、1996年にジュネーヴのソシュール家で発見された比較的新しい資料を中心に収集・購入した。具体的には、資料番号Archives de Saussure 368/1, 374/2, 374/3, 375/1, 382/7, 382/9, 383/13, 384/3, 384/9, 396/3に収録された合計1,972枚のTIFファイルである。 これまでに収集した資料のなかで、歴史学者アメデ・ティエリ(1797-1873)の著書『アッティラとその後継者たちの歴史』に関する手稿を見つけることができた。そこには、過去についての主観的想像の排除および過去における客観的事実の検証という、「歴史」に対するソシュールの一貫した研究姿勢を読み取ることができる。ティエリのアッティラ研究がソシュールの伝説・神話研究に影響を及ぼしていることはほぼまちがいなく、伝説の「細部」や「特徴」を最重要視する手法は、直接ティエリを援用していると言っても過言ではない。ただし、アッティラが歴史上実在したとみなされる人物であるのに対し、『ニーベルンゲンの歌』の英雄ジークフリートは伝説上の人物であるため、研究方法に自ずと違いが出てくる。ソシュールは年代記が伝説の基盤になっていると想定し、トゥールのグレゴリウス『フランク史』に『ニーベルンゲンの歌』の原型を見出す。伝説は歴史(イストワール)にもとづくというソシュールの伝説・神話研究の前提条件であり最終的な結論を「ソシュールの伝説・神話研究における歴史の概念」(『香川大学経済論叢』第92巻第3号、2019年12月)において公表した。
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