研究課題/領域番号 |
18K00483
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
海老根 剛 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (00419673)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 群集 / ヴァイマル共和国 / 群れ / ドイツ文学 / 都市 |
研究実績の概要 |
本研究の主題は、20世紀末から21世紀初頭にかけて政治哲学および自然科学の分野で発展を遂げた集団や群れの行動に関する理論的知見にもとづいて、ドイツ・ヴァイマル共和国時代の文学作品の群集表象を新たな角度から分析することである。研究計画に基づいて、2020年度は以下の作業を行なった。 今年度は過去2年度における群れや群集の振る舞いをめぐる理論的言説(複雑性の科学と蜂起と共同行動の政治哲学)の検討をベースにしつつ、主にヴァイマル共和国時代の文学テクスト(主に小説)における群集の表象の分析に取り組んだ。 年度前半では昨年度末から引き続いてドイツの女性作家 Hermynia Zur Muehlen の小説、自伝的テクスト、批評記事などを読み進め、そこで提示される革命と群集の結びつきを、今日の蜂起をめぐる政治哲学的言説の視点から捉え直す作業を行った。さらに1920年代中期の都市小説における技術的なインフラストラクチャー(マスメディアや交通機関)の主題化が「群れ」としての群集の表象の形成といかに結びついているかを検討した。これについては、10月の学会で口頭発表を行った。 年度後半では、特に1920年代中葉に多数出版された都市小説を重点的に読み進め、本研究が仮説として提示する群集表象の変容を検討した。群集表象の歴史的展開を把握するにあたっては、当時広く読まれ現在ではほとんど忘れ去られている都市を舞台とした多数の小説の検討が不可欠の作業であり、次年度の前半も作業を継続し、成果を論文にまとめる予定である。なお本年1月には、本研究課題の問題意識と作業仮説を簡潔に論じた論文をドイツ語で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は年度始めからコロナウィルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発布、それを受けた大学授業の全面的な遠隔実施への移行があり、年度前半は研究のための時間の確保の点で少なくない影響が生じた。また当初は秋に予定していたドイツでの資料調査を行うことができず、一部の資料の収集に支障が生じるとともに、海外渡航旅費を執行することができなかった。こうした点を鑑みて、研究期間の延長を申請して認められた。 以上のような障害が生じたとはいえ、全体としてみると、若干の遅れはあるものの、本年度の研究は概ね順調に推移していると判断する。すでに述べたように、前年度までは主に今世紀に入って成立した群れと群集の振る舞いについての自然科学的・政治哲学的言説の検討を行ってきたが、本年度からは本格的にヴァイマル共和国時代の文学作品の具体的検討に作業を重点を移している。この作業は、すでに検討済みで論文等で考察を行っている作品を本研究課題が立脚する視点から読み直す作業と、いまだ検討できていない文学作品を検討対象に加える作業からなるが、後者についてはまだなされるべき作業が多く残されている。昨年度後半にできる範囲で文献を入手したが、やはり現地の図書館やアーカイブに赴く必要のある資料があり、それらの資料についてはまだ入手できていない。これは来年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方針については、以下のように考えている。 まず年度前半には、前年度で着手した1920年代中葉の都市小説の検討を継続し、とりわけ女性作家による都市を舞台とした小説において群集の主題や表象がどのように扱われているのかを考察する予定である。これについては、年度内に学術雑誌に論文を投稿したいと考えている。 また年度後半には、昨年度行うことができなかったドイツでの文献調査を行いたいと考えている。加えて、1920年代末以降に前景化する保守革命的な傾向をもつ作家の小説作品における群集の表象の検討も進める予定である。とりわけ、そうした作家の作品に見られる群集あるいは集団の表象を、1920年代中期の新即物主義の文学に描かれた群集および共和国初期の革命的群集の表象と比較検討することが課題となる。こちらについても学会発表等のかたちで成果を公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、今年度はドイツにおける資料調査を行うことを予定しており、そのための旅費として40万円ほどを確保し、その他に外国語の論文の校閲費用や国内学会参加のための旅費を計上していたが、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大のために海外渡航が不可能となり、国内の学会についてもオンライン開催となったために当初予定した通りの予算執行ができなくなってしまった。したがって、研究期間の延長を申請して認められた。 次年度では海外渡航が可能になり次第、ドイツでの資料調査を行う予定である。また国内での学会参加や資料調査も行う予定である。
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