研究課題/領域番号 |
18K00484
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00298118)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 亡命ロシア思想 / シェストフ |
研究実績の概要 |
本研究はロシア革命後の亡命ロシア人の哲学思想や宗教思想を対象とする研究である。主に取り上げる思想家は、ベルジャーエフ、フランク、シェストフの三人である。一年目の研究では亡命ロシア思想の全体像を明らかにする作業を行った。そしてそれに続き、昨年度はシェストフの研究を始めた。 シェストフの亡命前の著作のほとんどを読むことができたが、アフォリズム的な文体で書かれた著作の解読に時間が取られ、二次文献の検討を予定通りに行えなかった。ただ、一次文献の検討によってシェストフの思想の核をなすと思われる問題を捉えることができたので、今後はその観点から亡命後の思想も検討したい。 我々が注目したのは、シェストフがベルジャーエフやフランクのような同時代の宗教思想家たちとは一見するとまったく異質な思考を展開しているように見えながら、彼の思想にも、経験的なものと形而上学的なもの、人間的なものと非人間的なものという同じような対立が設定されていること、しかしそうでありながら人間的なものの彼岸に見出されるものが、他の宗教思想家たちの場合とは異なっていることである。同時代の思想家たちの場合には、人間的なものの彼岸にあるのは生命的な動態性や創造性という生の哲学に由来する特徴と、永遠に不変の調和性というプラトニズムに由来する特徴を併せ持つ実在であった。それに対してシェストフの場合には人間的な理性によって整序させられる前の経験の無限の可能性である。人間は無限の可能性を抑圧し、可能性を狭めることで合理的な人間的な世界を作り出している。シェストフはそのような世界を作り出す人間的な枠組みを取り払い、それに抑圧されている無限の可能性を解放しようとする。そうした可能的なものをめぐる思想がシェストフの思想の中心にある。昨年度の段階での我々の理解はそのようなものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上の「研究実績の概要」でも述べたように、研究一年目で亡命ロシア思想の全体像の検討を行ったのを受け、昨年度はシェストフの思想の研究を始めた。本研究は三人の思想家の思想を研究対象としているが、当初から他の二人の思想家には一年間を割り当てているのに対して、シェストフの思想の研究には二年程度を割り当てる予定であった。他の二人、ベルジャーエフとフランクについては以前の科研費研究ですでに研究対象としたことがあるのに対して、シェストフの研究を行うのは今回が初めてであったため、まずはその全体像を視野に収めておく必要があった。そのため、亡命期の思想の研究に先立って、まずは亡命前の思想の研究を行う必要があると考え、亡命前の思想に一年弱、亡命後の思想の研究に一年弱で、合わせて二年程度の時間が必要であると考えたためである。 昨年度の研究では予定通り亡命前の思想の検討を行い、その時期のシェストフのほとんどの著作を読むことはできた。しかし、「研究実績の概要」でも述べたように、アフォリズムの形式を用いた著作がいくつかあり、その著作の検討に時間を取ってしまったため、一次文献の検討と並行して行う予定にしていた数点の二次文献の検討を十分に行うことができなかった。 その点を考慮して「現在までの進捗状況」は「やや遅れている」と評価するのが妥当であると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
一年目に亡命ロシア思想の全体像を検討したのに続き、二年目の昨年度には、研究対象とする三人の思想家の内の一人であるシェストフの思想の研究を始めた。シェストフの思想の研究は、亡命前と亡命後に分けて二年程度研究を行うことを予定しており、その予定で言えば、来年度はシェストフの亡命後の思想を対象とする研究を行うことになる。 しかし、他の科研費研究で今年度フランクの思想の研究を行わなければならない状況が生じたため、合理的に研究を進める目的で、こちらの科研費研究でも順番を入れ替え、三年目の今年度にフランクの研究を行い、シェストフの研究の後半部に関しては四年目となる来年度に行うことにしたいと考えている。 今年度行うフランクの研究に関しては、これまでの研究で主に対象とした亡命前の著作を読み直すとともに、『社会の精神的な基礎』や『理解しえないもの』など、亡命後の主要な著作を中心に検討する。以前行った亡命前の著作についての検討では、ベルクソンの影響を考慮に入れるとともに、フッサールの現象学との関係で検討を行ったが、亡命後の思想については、フッサールだけではなく、フランクが強い関心を示しているハイデガーの『存在と時間』との関係も視野に置きながら検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの影響のため、三月に行われた九州大学での研究会への参加を取り合やめたため。 今年度研究会の開催が可能であれば、研究会への出張に用いる。
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