研究課題/領域番号 |
18K00484
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00298118)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シェストフ / キルケゴール / 実存主義 |
研究実績の概要 |
本研究はロシア革命後の亡命ロシア思想を対象とする研究である。一年目は亡命ロシア思想の全体像を明らかにする作業を行い、二年目はシェストフの亡命以前の著作の検討、三年目はフランクの亡命後の思想の研究を行ったのに続き、四年目に当たる昨年度はシェストフの亡命後の思想の研究を行った。 亡命期のシェストフの主な著作、1929年の『ヨブの秤』、1939年の『キルケゴールと実存哲学』、1951年の『アテネとエルサレム』などを読み進めるとともに、それによってシェストフの全期間の主要著作に目を通し終えたため、昨年度の終わりの頃から二次文献の検討にも取り掛かった。 二年目の報告でも書いたが、我々はシェストフが問題にしているのは同時代のロシアの思想家たちと同様に経験的なものと形而上学的なもの、人間的なものとその彼岸の対立であると考える。ただし、シェストフが人間的なものの彼岸に見出すのは人間的な意識や理性によって抑圧された経験の無限の可能性であり、その点で、生成する生や永遠に不変のイデアのような生の哲学的、あるいはプラトニズム的な実在を想定する他の思想家たちの場合とは異なっている。昨年度は、亡命後の思想、とりわけキルケゴール論を検討することで、その理解で間違いないことを再確認できたと考える。 さらにそれに関連して言えば、シェストフは実存主義者と見なされることが多く、昨年度読んだ複数の二次文献でも、個的な人間の主体性を問題にする思想家として扱われていたが、人間的な意識や理性に抑圧された無限の可能的な経験を開こうとするシェストフの思想は、むしろ統覚の働きによって「我」という一つのまとまりに統一されている個的な主体を無限の経験可能性へと開くことでその統一を解消するような方向に向かっているように思える。 しかし、こうした理解が適切かどうかについてはさらに微視的な検証が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では,亡命ロシア思想の全体像の把握に1年、シェストフの亡命前の思想の研究に1年、亡命後の思想の研究に1年、フランクの亡命後の思想に1年、ベルジャーエフの亡命後の思想の研究に1年、合計して5年の研究を想定していたが、現状では、4年目が終わった段階で、亡命思想の全体像の把握、フランクの亡命後の思想は終わったが、シェストフについては2年を使って亡命前の思想と亡命後の思想の読解は終えたものの、二次文献の検討、またシェストフの諸著作の全体をもう一度検討しなおし、その思想の全体像を我々の独自の観点から構築する作業をいまだ終えることができていない。以前の報告でも書いたが、シェストフの著作の独特のアフォリズム的な性格に戸惑い、亡命前の思想、亡命後の思想ともにその著作の読解に予想以上の時間を要したためである。 そのため、残り一年を残す現段階で、当初予定していたベルジャーエフの亡命期の思想の検討のほかに、昨年度までで完了しているはずだったシェストフの思想の研究についても幾分かの作業が残っており、当初の研究計画から見れば、研究が「やや遅れている」と言わざるを得ない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
上の「現在までの進捗状況」の欄にも書いたように、研究は残り一年で、当初の予定では、その最終年度の研究期間は、ベルジャーエフの亡命後の思想の研究に充てる予定にしていたが、ここまでの研究がいくぶん遅れており、ベルジャーエフの思想の研究の他に、シェストフの思想の研究に関わる作業もまだ残っている状況である。 その両方を残り一年間の研究期間で終えるのは困難なるので、進行中のシェストフの研究を行いつつ、同時に可能な限りベルジャーエフの思想の研究も行うようにしたいと考える。 ただ、上の「研究実績の概要」の欄にも書いたように、シェストフの研究を進めていく過程で、シェストフの思想と実存主義の思想の関係を明らかにすることが我々のシェストフ研究の独自性になりうると考えるようになった。研究をこの点で深めるには、当初予定していたキルケゴールの思想の検討の他に、ハイデガー、ヤスパース、サルトルの思想にも目配りしておく必要がある。そうした作業も含めると、最終年度にはシェストフの研究にかなりの時間を要するはずであり、ベルジャーエフの研究に割ける時間は少なくなる。 しかし、本研究の当初の目的は、亡命前に思想家としての名前をすでに確立していた60-70年代生まれの世代の亡命思想家たちの思想を検討することだったので、最終年度の研究をシェストフのみに限定することはせず、不十分でもベルジャーエフの亡命後の思想にも目を向けておきたいと考える。そのため、最終年度には二人の思想家の研究を並行して行うことにする。 シェストフについてはこれまでの二年の研究成果をもう一度見直してシェストフの思想の全体像を明らかにするとともに、先行研究を念頭に置きながら、我々独自のシェストフ観を構築する作業を行う。一方、ベルジャーエフについては、まずは彼の亡命後の著作を精読する作業を進めていくことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた書籍が入荷されなかったため、未使用分が生じた。予定していた書籍を購入することで余剰分を使用することにする。
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