ルネッサンス期の演劇教育の進展を背景とした俳優に対する肯定的な社会的認識の展開について宮廷と俳優の関係について昨年度からの分析を継続するとともに、新たに知識人の言説を基に調査を実施した。都市建築が演劇的スペクタクルの要素を取り込み、劇場が公共機関としての政治性を増す傍らで、都市間を移動する俳優の文化媒体としての機能が高まった。この時代背景を手がかりに、モンテーニュの考察における、俳優の影響力の向上と都市の娯楽に関わる俳優の文化的役割について検討した。その際に、俳優の市民に対する演劇経験の提供と、文芸共同体の構築、社会的なコミュニケーションの豊穣性を実現する機能に注目し、俳優の階級や国籍を超えた文化的紐帯としてのコスモポリタン的な存在を分析した。また、俳優の職業観の比較的な向上について、市民社会における演劇の大衆化が進んだ以外にも、貴族や知識階級の子供達の修辞学教育に演劇的手法の導入がみられた点について調査をした。これについては、パスカル以外にも、文法学校等でレトリック教育が花開いた英国における知識人ベーコンやエリオットの言説も分析対象とした。演劇の言語的・道徳的教育効果が評価され、さらに俳優が教師的役割として認識される過程も考察した。また、俳優が徐々に社会的また文化的象徴となる過程において、演劇に対する宗教的抑圧の緩和があるが、この宗教観の変化を背景に、エラスムス、ルター、コメニウスの言説から喜劇の教育的効果とそれに伴う喜劇役者に対する肯定的な評価に焦点を当てて考察した。以上の研究成果については、これまでの科研費研究実績と合わせて、書籍として2021年度を目処に出版をする予定である。また、昨年度の研究成果が、2020年度に日本ライプニッツ協会の学術雑誌『ライプニッツ研究』6号で出版された。
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