研究課題/領域番号 |
18K00489
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
桑瀬 章二郎 立教大学, 文学部, 教授 (10340465)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 啓蒙思想 / フランス哲学 / フランス文学 / ヴォルテール / モンテスキュー / ルソー / セクシュアリティ |
研究実績の概要 |
令和元年も、平成30年度に引き続き、モンテスキュー、ヴォルテール、ルソーについて集中的に研究を進めた。ヴォルテールについては、平成30年度「実施状況報告書」に記した「ヴォルテールの「生涯」―伝記あるいは自伝の必然性/不可能性」と題された研究報告を深化させ、学術論文として刊行した。この中では、いわゆる自伝的著作群(書簡をも含む)の分析を通して、すでに先行研究において指摘されているように、「子を残すこと」を拒否あるいは拒絶したとさえうつる、哲学者の複雑な生/性について、これがどのように公衆に提示されているかを明らかにした。また、ヴォルテールについては、「18世紀フランス演劇における「オリエント」再考-モリエールから出発して」と題された研究報告も行った。その中では、彼の代表的演劇作品である『ザイール』と『狂信、あるいは預言者ムハンマド』を集中的に分析し、今日いわば隠蔽される傾向にある哲学者のオリエント観の危険な側面を明らかにした。 ルソーについてはこれまた平成30年度「実施状況報告書」に記した、『新エロイーズ』の分析から出発し、作家の特異なセクシュアリティ観に迫る論稿がフランスの研究誌Rousseau Studiesに掲載された。 モンテスキューについては、『ペルシア人の手紙』における「宦官」を『法の精神』における「宦官」像と比較しつつ論じた。 最後に、「カストラート」についてもこれまでの研究をまとめた。サン=テヴルモン、グリム、ヴォルテール、ルソーのほか、当時の歴史家をも扱った。 この二つについては、すでに完成しているが、現段階では研究発表を行わず、最終的な研究成果としてまとめて発表する予定である。 これらの研究はすべて、国内ではほとんど扱われることがなく、さらには政治的文化的状況から欧米では回避される傾向にある主題を扱っており、極めて独創的な成果が得られたと確信している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究については、いくつかの修正を迫られた後、計画の全体像が明確になってきた。①「宦官」の表象の象徴例としてモンテスキュー作品の分析から出発し、②「カストラート」についての分析を展開した後、③いわゆる啓蒙の歴史的視点から「去勢者たち」について論じ直し、④ビュフォン、ディドロを中心とする博物誌的、生理学的、哲学的視点からの分析へと進み、⑤最後に①~④を十八世紀フランスの代表的思想家の生/性の表象(特に伝記的言説と自伝的著作に注目する)と関係づける、というものである。 このうち、「研究実績の概要」に示したように、①モンテスキュー作品を中心とする「宦官」の表象分析と②「カストラート」についての新たな視点からの分析については予定通り研究を遂行することができた。また、⑤十八世紀フランスの代表的作家・思想家の生/性表象分析についても同様であり、とりわけヴォルテールやルソーについてはすでに調査を終えた。 ただ、①~⑤全体については研究に少し遅れが出ている。令和元年は、諸般の事情により、予定していたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での集中的な研究調査が行えなかったためである。当然ながら、国内で利用可能な各種データベースを活用しつつ、可能な限り調査を進めつつあるが、どうしても使い慣れたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での調査に比して効率が悪い。具体的な一例をあげれば、「研究実績の概要」でも触れた十七世紀フランスの重要な思想家サン=テヴルモンについて、日本国内での研究は驚くほど遅れており、また参照できる文献も限られており、関連文献の取り寄せ、調査等に時間を要した。 現在の状況では、令和元年に行えなかった(上述の施設における)集中的な研究調査を実施できるかどうかは怪しく、行えなかった場合に備え、これに変わる調査手法の確立が急務となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で詳述したように、すでに計画の全体像が明確になってきたが、今後は、いかにして、③いわゆる啓蒙の歴史的視点から「去勢者たち」について論じ直し、④ビュフォン、ディドロを中心とする博物誌的、生理学的、哲学的視点からの分析へと進め、統一的総合的研究へと仕上げるかが問題となる。 ③いわゆる啓蒙の歴史的視点から「去勢者たち」について論じ直すとは、ヴォルテール、モンテスキューといった十八世紀フランスを代表する思想家たち、さらには同時代の歴史家たちが、どのように過去の「去勢者たち」について論じているかをいわば象徴的に明らかにすることを意味している。分析の対象となる啓蒙思想家の作品についてはすでに予定通り分析を進めているが、やはり、どうしても過去の「去勢者たち」それ自体をめぐる研究、とりわけ歴史学の成果をおさえておく必要がある。この領域における研究は英米圏、とりわけアメリカの研究機関で充実しており、各種オンラインデータベースや電子書籍を利用して、可能な限り作業を進めていきたい。 ④ビュフォン、ディドロを中心とする博物誌的、生理学的、哲学的視点からの分析についても同様に、彼らいわゆる代表的思想家の作品群についてはすでに分析を進めているが、同時代の他の思想家のテクストについてはエコール・ノルマル図書館での研究調査が効率的である。だが、この研究調査が実施できなかった場合は、各種オンラインデータベースや電子書籍を利用して、作業を進めていきたい。ただし、扱うべきテクストの中には、当然ながら電子化されていないものもあり、調査手法のさらなる検討が不可欠である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」で記したように、主たる理由は、令和元年には、諸般の事情により、予定していたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での集中的な研究調査が行えなかったためである。状況が許せば、次年度使用分をこうした研究調査にあて、これを実施したい。それが困難である場合、研究の遂行に不可欠な、いまだ電子化されていない文献、これは多くの場合高価な古書となろうが、これの購入費用にあてたい。そして、研究調査にかわる、分析対象資料の拡充につとめたい。
|