最終年度である4年目は、予定どおり研究成果を発表した。 2021年5月、国際シンポジウム「プルースト──文学と諸芸術」がオンラインで開催され、発表内容が論文集『プルーストと芸術』として2022年3月に刊行された。そのなかで小黒は「ある眼差しの歴史=物語のために──プルーストと二十世紀の視覚文化」と題し、広告ポスターをめぐる世紀転換期の批評的言説(ロジェ・マルクス、ギュスターヴ・カーン、エミール・ストロースなど)を分析しながら、プルーストの小説におけるポスターの描写を読解した(289-308頁)。坂本は「探偵と犯人のあいだで──プルーストと推理小説の時代」と題し、プルーストがポーやドイルの作品をどのように受容し、作品に活用したのかを検証し、スティーヴンソンの『爆弾魔』と『見出された時』の戦争の挿話の具体的な共通点を指摘した(325-340頁)。小黒はまた、クリストフ・プラドーの論考「プルーストと万国博覧会の見世物(スペクタクル)」の翻訳もおこなった(309-324頁)。 2021年7月、日本プルースト研究会において、坂本が「プルースト受容の現在──大衆化と学術性のあいだで」と題して発表した。(1)小説の視覚化(図版、映画化、マンガ化)の意義と問題点、(2)映画や小説に登場する「プルーストの読者」像、(3)大衆文化における「プルースト効果」のイメージ、(4)二次創作と批評の境界という4つの観点から、収集した事例を紹介・分析した。 2022年1月、受容研究の射程を科学の分野に広げ、「プルースト現象」(嗅覚にもとづく自伝的記憶)の専門家・山本晃輔氏を講師に迎え、オンライン研究会「認知心理学におけるプルースト受容」を実施した。 坂本は、『消え去ったアルベルチーヌ』における「未成年者誘拐」のエピソードを同時代の作品と比較した論文をフランスの専門誌に寄稿した(2022年秋に刊行予定)。
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