本研究課題の達成のためにはドイツ語圏での文献調査が不可欠であったが、コロナ禍にあり、2021年度も昨年度同様、海外への渡航は難しく、当初の研究計画を遂行することは困難であった。 そこで海外での調査が実施困難な場合に予定していた、近年ドイツ語圏で出版および研究の進んでいるVicki Baum等の作家の亡命期の作品を取り上げることとし、具体的にはBaumの長編小説"Hotel Shanghai"(1939)の論考執筆の準備を行った。同作品は1937年の上海事変で物語を終えるが、その歴史的社会背景を理解するために、当時の歴史を扱った研究書や同時代の日本語で書かれた上海を舞台とした文学作品にも当たった。 その後日本の出版社から申請者にIrmgard Keunの亡命期の代表作"Nach Mitternacht"の翻訳出版の打診があり、Baumの作品分析は途中であったが、これまで日本のドイツ文学研究で等閑視されてきた女性作家と亡命について紹介する好機と考え、当初の予定を変更し、同作品の翻訳に取り組むこととした。 また出版に際しては、本研究課題の成果として、巻末にドイツ語圏の女性と亡命についての解説の執筆を予定している。そのため翻訳作業と併行してKeunや"Nach Mitternacht"および亡命期の作品を扱った論考を読み進めるとともに、最新の亡命研究についても知見を広げ、解説執筆の準備を進めている。 なお翻訳作業はすでに終了し、2022年夏頃に出版予定である。
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