研究課題/領域番号 |
18K00496
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
丹羽 京子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90624114)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベンガル文学 / ベンガル語 / 中世ヴィシュヌ派 / 語彙集 |
研究実績の概要 |
今年度行った業績は主として2点である。 1点目は昨年度から引き続き行われている中世ビシュヌ派の詩編の研究である。インドの専門家を交えて週一回の読書会を引き続き行ったほか、徐々にノートを整理し、出版のための準備を進めている。ヴィシュヌ派の詩編は、その名の通り基本的にヒンドゥー神話に準拠しているものだが、ムスリム詩人も類似の詩を書いており、ベンガル文学の混交的な性格をよくあらわしている。また数百年に渡って多くの詩人が同一テーマで詩作を行っているため、時代の変化もあらわしており、これらの詩編の詳細な翻訳と解説はベンガル文学を解明するために欠かせないものと考えられる。こうした時代による変化や各詩人の性格などを捉えるために、読書会のほかにも数名の専門家と協議を行った。 2点目は、同じく前年度から引き続き行っていた語彙集の作成である。すでに述べた通り、ベンガル語には対日本語の辞書が存在せず、それを作成するための基礎作業であるが、今年度は日本語‐ベンガル語を先行して作成し、3000語レベルまでの語彙集を完成させた。日本語ーベンガル語を先行させたのは、通常使われているベンガル語‐英語の辞書より、英語‐ベンガル語の辞書の使い勝手が悪く、学習者が作文を行う際に著しく困難を覚えているためである。語彙集には簡単な例文も付し、簡易印刷のうえ、学生を中心に学習者に配布した。今後、綿密な校正作業を経て、完成版を製本する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の二つの柱は、今日では国家としてはバングラデシュとインドに分かれているベンガルの文学を統一的に捉えることと、辞書作成への道筋を作ることである。 文学研究においては当初、統一的な文学史を俯瞰することを目指していたが、対象が広範にわたり、現状ではインド、およびバングラデシュの研究者と密な連絡を取りつつ総合的な文学史を作成することは困難となっているため、ベンガルがひとつであったころの中世ベンガル文学に的を絞ることを考えている。それによってもともと融合的であったベンガル文学の性格を浮き彫りにできるとの考えからである。なお、この分野における研究協力者であったバングラデシュの文学研究の大御所であるアニスッジャマン名誉教授がコロナで亡くなってしまったこともたいへんな痛手であった。 辞書作成への道筋も容易ではなく、当初協力を仰いでいた大学院生の離脱(退学)もあり、規模を縮小せざるを得ない部分があった。先に述べた通り、日本語‐ベンガル語の語彙集はなんとか完成までたどり着いたが、辞書のかたちに改めるのにはまだ時間がかかりそうである。 また本来今年度行う予定であった国際シンポジウムもコロナで延期を余儀なくされており、そうした遅れを次年度にはできるだけ取り戻す所存である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は本来令和2年度が最終年度であったが、諸般の事情により1年の延長を申し出、すでに承認されている。 新たに最終年度となった令和3年度の研究計画は以下の通りである。 ①令和2年度に開催する予定だった国際シンポジウムを開催する。このシンポジウムはインドとバングラデシュ双方の詩人を招待して分離独立後のそれぞれの文学の潮流についてディスカッションを行うもので、本研究にとって非常に重要な意味を持つ。現在のところ対面で行うことができるかどうかは不確定だが、むずかしいようであればオンラインによる開催に踏み切る予定である。 ②中世ヴィシュヌ派の詩編のアンソロジーを作成する。主だった詩人の作品の翻訳と注釈および中世ヴィシュヌ派詩人の解説をまとめたもので、年度末までに製本の予定である。 ③日本語‐ベンガル語およびベンガル語‐日本語の語彙集(ほぼ完成している)の最終校正を行い、製本までを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナにより、予定していた現地での調査、協議ができなかったほか、同じく予定していた国際シンポジウムも開催できなかった。 次年度にいずれも実施の予定であり、インドおよびバングラデシュより2名の研究者を招待するほか、自身も出張を行うつもりである。 さらに当初から予定されている中世ヴィシュヌ派の詩編のアンソロジーおよびベンガル語語彙集の印刷製本も行う。
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