今年度の研究成果のひとつは、9月に本学で行われた国際セミナーである。コロナにより延期されていたが、今年度はインド側、バングラデシュ側双方のベンガル人詩人を招いて分離独立後の詩壇について比較検討しながら報告してもらい、ディスカッションを行う予定であった。残念ながらインド側の詩人が来日直前にコロナに感染したために来日は叶わなかったが、オンラインで参加してもらい、予定通り東西両詩人による報告とディスカッションを実現することができた。 二点目は3月に発行された「ベンガル研究創刊号」である。これはベンガルに関わる研究者の論文や翻訳を掲載する初めての雑誌で、日本語、英語、ベンガル語の三言語による多くの投稿が掲載された。特に、日本とベンガルの関係史を、バングラデシュ側、インド側双方から振り返った二本の英語論文は対をなすものとして注目を集めた。そのほか、分離独立前のベンガル詩壇を概観した論文や、翻訳論、映画論、そしてベンガル語の言語学的な解析をおこなった論文を含む充実した創刊号となった。なお、この雑誌は今後も年一回のペースで発行を続けていく予定である。 また、前年度に引き続き、中世ヴィシュヌ派の詩編の研究も継続的に行われた。インドの専門家を交えての週一度の読書会は現在も続けられており、いずれまとまった研究成果として提示できると考えている。 研究期間全体を通しては、計画通りに進まなかった部分はあるものの、ベンガル語ベンガル文学に関して、東西いずれにも偏らない包括的な観点を提示することはできたと考える。特に「ベンガル文化」は今後の研究発展のための新たなステップになると言えるだろう。前年度に完成したベンガル語の語彙集は、人員や時間が不足し、辞書のかたちまで持っていくことはできなかったが、現在改訂作業が進められている。なおこの語彙集は本学学生のみならず、多くのベンガル語学習者に配布されている。
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