研究課題/領域番号 |
18K00499
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
谷口 幸代 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50326162)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 多和田葉子 / トポス |
研究実績の概要 |
本研究は、日独バイリンガル作家・多和田葉子の文学における複数文化的なトポスの諸相を明らかにすることを目的としている。 2023年度は、補助事業期間の延長が認められたため、コロナ禍の影響で延期していたドイツへの調査出張を実施し、本研究の中心的な分析対象である『百年の散歩』が描く街路に関する実地の補足踏査と文献の補足調査を行った。ベルリンの街路名がたどった歴史的経緯と名称をめぐって現在まで重ねられてきた議論の動向、ホロコーストの犠牲者ゆかりの場所に鎮魂のオブジェを埋めるというグンター・デムニッヒ(Gunter Demnig)のプロジェクト「Stolpersteine」等とその反響について調査し、『百年の散歩』では、それらが提起する時事的な論点を反映しながら、愛国主義や排外主義、情報や思想の統制を絶えず警戒する「わたし」の思考のあり方を描いていることを考察した。描かれる十の実在する街路の中からマルティン・ルター通りとプーシキン並木通りを歩く「わたし」の散歩を中心に考察を論文にまとめ、牛村圭編著『戦争と鎮魂』で発表した。 継続作業として、多和田文学におけるトポスの展開を調査・整理する作業に従事した。古今和歌集を題材にした高瀬アキとのパフォーマンス「春の桜のなかりせば、、、」(於・シアターX、2023年11月15日)等を鑑賞し、前年度までに収集したデータベースを更新した。また、多和田の書き下ろしオペラ「あの町は今日もお祭り」における歴史や文化の表象に関する分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響で延期していたドイツへの調査出張を実施し、『百年の散歩』が描く街路に関する実地の補足踏査と文献の補足調査を行うことができた。また、戦争で生まれた死者とその鎮魂について、歴史学、政治学、比較文学、宗教学など様々な分野の専門家が討議する論集に投稿し、成果を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、「くにたちオペラ」「Meine Freunde aus der Ferne」の台本と実演の分析を進め、多和田演劇研究に関するワークショップやシンポジウムに参加し、多和田文学研究者、演劇研究者、実演家と意見を交換するとともに、本研究の総括につとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の影響により、予定していた外国出張やインタビューなどを計画通りに遂行することができなかった。2023年度に入り、見合わせていたそれらの計画を徐々に実行に移すようつとめたが、見合わせていたすべての計画を1年度で実行することはできず、研究の総括までには至らなかった。次年度も引き続きコロナ禍で見合わせていた外国出張を実行し、研究の遅れを取り戻すことが必要となる。
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