研究課題/領域番号 |
18K00505
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤元 優子 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (40152590)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イラン現代小説 / 女性作家 / 1980年代から2000年代 |
研究実績の概要 |
「イスラーム革命を経たイランにおいて、ジェンダー構造とセクシュアリティのあり方がどのように変化したのか(あるいはしなかったのか)を明らかにする」という本研究の目的に則り、2004年刊行のゴリー・タラッキー著の短編集『二つの世界』から、「父」を翻訳し、『中東現代文学選 2021』(中東現代文学研究会・編、2022年、pp.183-202)に発表した。父親に強い憧憬の念を抱き、その支配を受ける娘、というジェンダー構造を持つ小説作品の分析の一環である。 同じ目的のため、今年度は自伝文学にも研究対象を広げて、サッターレ・ファルマーンファルマーイヤーン著『ペルシアの娘――父のハーレムを出てイスラーム革命を経たある女性の旅――』(1993)について考察した。この作品については、2021年3月開催の基盤研究(A) 「イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究」(研究代表者:長澤榮治)が実施した研究会で研究発表を行い、それを含む共同研究の成果として、『記憶と記録からみる女性たちと百年』(近刊)に、「人々の痛みの根源を探る――イラン・ソーシャルワーカーの母」と題した論文を纏めた。この作業の中で、自伝文学がイランのジェンダー状況の現実を直接的に反映していることを再認識し、これを研究対象とする必要を痛感した。 また、2021年11月13日開催の日本中東学会公開講演会「中東の都市探訪――歴史と文学から」に講師として参加し、「望郷――小説に見る変わりゆくテヘラン」と題した講演を行った。目的はテヘランが小説でどのように描写されているかを明らかにすることであったが、二人の女性作家の作品であるゾヤ・ピールザードの「ハーモニカ」(1992)と上記の「父」を取り上げ、ジェンダーの問題にも言及した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
遅れの最大の原因はコロナ禍で、予定していたイランへの出張が昨年度に引き続き行えなかったため、現地での作家へのインタビューや研究者との情報交換、図書館等での資料収集ができず、予定が大幅に狂い、研究の進捗に大きな影響が出てしまった。 もう一点、研究への悪影響を及ぼしたのが、研究代表者の退職に伴う片付け作業である。研究室からの蔵書等の引越作業と各種の事務作業が重なる事はは予測していたつもりであったが、実際は予測を遙かに上回る作業となり、とくに年度後半には正常な研究活動が殆どできない事態となった。 以上のように研究計画の進捗が遅れているため、1年間の研究期間延長を申し出た。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍が収まって海外出張が可能になれば、イランへの出張を計画したい。それが難しい場合で、米国ならば可能ということになった場合には、米国在住の著名な女性作家モニールー・ラヴァーニープール氏との面会を実現させるべく努力する。 最終年度となったが、諸事情により研究の進捗度は遅く、広範な小説ジャンルを対象とする研究の計画通りの纏め作業には入れそうもない。しかし、これまでに扱ったスィーミーン・ダーネシュヴァル、ゴリー・タラッキー、モニールー・ラヴァーニープール、ゾヤ・ピールザード、ファリーバー・ヴァフィー、ハージセイエドジャヴァーディーらの作品から、1980年代以降約30年間の女性文学について、「父と娘」に焦点を絞り、ジェンダー論の観点からの論文に纏めたい。 また、以前から準備していたM.ラヴァーニープールの短編小説選集の翻訳を出版まで漕ぎ着けられるようにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による国内外への出張がまったく行えなかったことと、研究代表者の定年退職に伴う学務の過重な負担により、最終年度となる2021年度に満足な研究活動ができなかった。そこで、研究計画の1年延期を申請し、認められた。 2022年度には、コロナ流行収束が条件となるが、イランもしくは米国への資料収集のための出張を予定している。また、重要な女性作家モニールー・ラヴァーニープールの短編選集出版にも予算を使用する計画である。
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