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2018 年度 実施状況報告書

「人新世」という地球史の概念による現代文学の分析と評価-その展望と課題

研究課題

研究課題/領域番号 18K00511
研究機関城西国際大学

研究代表者

芳賀 浩一  城西国際大学, 国際人文学部, 准教授 (70647635)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード人新世 / 環境批評 / 文学と環境 / 環境人文学 / エコクリティシズム
研究実績の概要

本研究は、文学と環境人文学の学際的研究の確立を目指し、特に近年注目度が高まっている「人新世」の概念に着目して、いかに人文学と文学研究がこの「人新世」の概念に対応することを通して自らを刷新しているかを解明する試みである。「人新世」とは人間の活動の影響が地球環境に変化を及ぼし地球の未来を左右するようにまで大きくなった時代のことを指す。
研究計画では最初の段階として「人新世」に関する英語文献を収集・整理・分析することにしていた。この作業に係る文献は相当数あり、研究計画期間である3年を通して継続されるものであるが、昨年度で約50の文献を入手して時系列的に整理し、そのうち重要と思われる30程度について内容を詳しく分析した。
人新世の概念形成は、まずその時代の始まりをめぐる論争をひとつの中心として展開してきた。この概念を最初に広く世界に知らしめることになったポール・クルツェンは産業革命の始まった1770年代をその始まりと想定していたが、その後さまざまな分野の研究者が人新世について考察する過程で近代を中心とした歴史観に大きな変更を迫ることになった。未だに決着がついたとは言えない人新世の始まりの時期については、農業革命が起こった約10000年前、大航海時代の西暦1500年、産業革命が本格化した1800年、そして原水爆実験による放射性物質の拡散が顕著になった1960年代など、様々な視点からその是非が論じられている。
このような地球規模の概念をめぐる議論は科学的事実のみによって決着がつくものではなく、文化的倫理や政治といった人文学的要素が大きな意味をもつようになる。これからの2年間で人新世をめぐる人文学の展開がいかに文学研究に変化をもたらしているかについて考察を深めたい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の計画では、2018年度に「人新世」の概念がクルツェンとストーマーによって提唱された2000年以前および2000年以降の英語圏における関連文献を収集・整理・分析することを主な活動としていた。海外で出版された文献がほとんどであるため、主にインターネットを通じての購入によって文献を収集することになった。広義の環境人文学の分野の英語文献を約50冊購入して重要と思われるものから順次分析を進めた。同時に日本語の関連文献や英語の小説で災害や気象変動に関連するものについても収集を進めている。
研究成果の発信の一環として、まず2018年6月に単著『ポスト3.11小説論―遅い暴力に抗する人新世の思想』(水声社)を出版した。また、2018年10月に台湾師範大学で開催された国際学会「2018 International Symposium on Literature and Environment in East Asia」に参加して発表を行い、日本のポスト3.11小説における原子力災害の表象とその背景にある思想について人新世の概念に触れつつ分析を行った。そして2019年1月には英文著書『The Earth Writes : the Great Earthquake and the novel in post-3/11 Japan』をLexington Booksより刊行した。
今後はさらに人新世の意味を掘り下げた成果の発表も行っていきたい。

今後の研究の推進方策

当初の計画において、2019年度は英語文献に加えて日本語文献の収集・分析にも力を入れ、日本における「人新世」概念の受容とそれによる文学研究、人文学研究の変化を記録し考察することになっていた。よって本年度は日本語文献の分析も英語文献と同じようなスピードで進めていきたいと考えている。国会図書館や大学図書館等を積極的に活用しつつ、インターネットによる購入も併用していく。また、本年度は英語圏の学会に参加して現在の環境人文学における人新世の議論とその影響について情報収集すると同時に日本からの成果も発信していきたい。
さらに、日本においても、東日本大震災後の文学作品や気候変動を扱った作品等の分析を通して人災と天災の複合性を「人新世」という枠組みで考察する可能性を追求していく予定である。「人新世」概念そのものの移動と変容を分析すると同時に、それと共に起こる人文学、特に文学研究の変容を分析し発信していきたいと考えている。概念の客観的な観察だけではなく、それを使用し概念形成に関与する行為者であることによって、当事者としての研究を遂行していく計画である。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由については、当初計画では、欧米への海外研究渡航を行う予定であったが、日程的な問題で台湾への学会参加となったこと、また研究で使用するためのノートPCの購入を本年度に持ち越したことなどが主なものとして挙げられる。
本年度はアメリカへの海外調査渡航を実施し、機材も購入して研究体制を充実させる予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2019 2018

すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (2件)

  • [学会発表] The Peaceful Use of Military Technology and the Post 3.11 Novels.2018

    • 著者名/発表者名
      Koichi Haga
    • 学会等名
      2018 International Symposium on Literature and Environment in East Asia
    • 国際学会
  • [図書] The Earth Writes : the Great Earthquake and the novel in post-3/11 Japan2019

    • 著者名/発表者名
      Koichi Haga
    • 総ページ数
      148
    • 出版者
      Lexington Books
    • ISBN
      9781498569033
  • [図書] ポスト〈3・11〉小説論 : 遅い暴力に抗する人新世の思想2018

    • 著者名/発表者名
      芳賀浩一
    • 総ページ数
      398
    • 出版者
      水声社
    • ISBN
      978-4-8010-0329-3

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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