研究課題/領域番号 |
18K00514
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
手塚 恵子 京都先端科学大学, 人文学部, 教授 (60263183)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 壮族 / 中華人民共和国 / 口承文芸 / オラリティ / リテラシー / 掛け合い歌 / 方塊字 / 古壮字 |
研究実績の概要 |
『声の文化と文字の文化』においてオングは、口頭構成法理論やA・R・ルリアの論考などに基づき、表現や思考が声にもとづいて組み立てられている世界と、それらが文字によって組み立てられている世界では、人間の思考と表現のあり方が大きく異なっていることを明らかにした。現在では、人間の思考のあり方に関しては、オング説は必ずしも賛意を得ていない。その一方で英雄叙事詩や語り物の表現においては、リテラシーには見られないオラリティ特有のものが見いだされ、両者の間の不可逆的な断層の存在が肯定されている。 本研究の目的は、口頭構成法以外の方法で作られた口承文芸に、リテラシーと明確に分立するオラリティが存在するか、あるとすればそれはどのようなものかを探求することであり、その目的を達成するために、中国の広西壮族自治区に居住する壮族の口承文芸である掛け合い歌(フォン)を対象にして、事例研究を行うものである。 事例研究では焦点を「武鳴県の壮族のフォンの修辞表現の差異が方塊字(伝統的な壮語の書き言葉)の識字の有無に関連しているか」に絞り、2020年度は下記の手順で研究を進めた。 ①広西壮族自治区武鳴県において過去に収集し、ノートに記述した掛け合い歌6000首について、昨年度に引き続き、歌い手ごとに歌を整理した。②①のうち、300首(5冊のノート分)について、現代壮語(アルファベット表記)、方塊字(古壮字ともいう。伝統的な壮語の書き言葉)、現代中国語を用いて、電子データ化を行った。③①で得た資料を用いて、壮族の掛け合い歌におけるオラリティとリテラシーに関する口頭発表を1回、論文を2篇公表した。また壮族の掛け合い歌研究が今後の口承文芸研究にどのような形で寄与できるかを考察した論文を1篇公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究が遅れているのは以下の2点である。①昨年度に引き続き、本年度も広西壮族自治区における掛け合い歌のフィールドワークを実施することを計画していた。掛け合い歌のシーズンは、毎年旧暦の3月であり、今年度も3月から4月に3週間程度のフィールドワークを計画し、その準備を進めてきたが、新型コロナウィルスの流行により、中国への渡航が不可能になり、フィールドワークを実施することが不可能になった。②昨年度の研究計画において「方塊字のIMEについても、中国へ渡航できなかったために、使用の最終調整が頓挫しているので、来年度は、異なる方法を用いた方塊字の電子データ化を行う予定である」と記載した点である。方塊字(古壮字)は異体字が多く、その大半が共通した文字コードを待たないため、Unicodeによる記述を諦め、他の方法での記述することにした。この方法の確定および作業者へのトレーニングが、緊急事態宣言の発令およびリモートワークの推進によって遅延したため、電子データ化が当初の予定より、進展しなかった。 資料を用いての研究発表については、これまでに得た資料を用いて分析するとともに、必要最小限の資料を電子データ化することで、なんとか乗り切っている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究計画のうち、フィールドワークについては、新型コロナウィルスの流行により、中国への渡航が不可能になり、実施することが不可能になった。来年度にフィールドワークを実施できるように、準備を整えていきたい。なおフィールドワーク先の歌の掛け合い祭は、2021年春季に一年ぶりに復活しているので、渡航ができれば、フィールドワークは可能であると思われる。 その一方で、新型コロナウィルスの終息状況如何によって、2021年度もフィールドワークの再度の延期もあり得るので、これまで収集してきた6000首のフォンを、現代壮文表記、漢語による表記、方塊字表記によって電子データ化する作業に注力していきたい。電子データ化の方法については2020年度で確定することができたので、2021年度は作業を円滑に進めることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、壮族の掛け合い歌であるファンのテキストをデータベース化するとともに、フィールドワークによって、フォンの歌い手から聞き書きを行い、それを映像化するプロジェクトを持つものである。 今年度は、新型コロナウィルスの流行により、中国への渡航が不可能になったため、フィールドワークを実施することができなかった。また方塊字の電子データ化の作業を中国において実施することもできなかった。 方塊字の電子データ化を、初期の計画とは異なる方法によって、日本で行う目途が今年度末に立ったため、来年度は電子データ化を加速させたい。またフィールドワークについても、渡航が可能になった時点で、実施できるよう、準備を整えていきたい。
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