研究課題/領域番号 |
18K00515
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研究機関 | 京都ノートルダム女子大学 |
研究代表者 |
鷲見 朗子 京都ノートルダム女子大学, 国際言語文化学部, 教授 (20340466)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アラビアンナイト / 千一夜物語 / 枠物語 / イスラーム / 仏教 |
研究実績の概要 |
令和2年度は『百一夜物語』のアラビア語から日本語への翻訳についての研究発表をサウジアラビアのキング・サウード大学主催のオンラインカンファレンスにおいてアラビア語で行った。写本ごとに物語の内容においてさまざまな差異があることを確認した。差異のうち、どれを採用するのかによって、物語の意味が変わってくるので、慎重に選択することが重要である。たとえば、枠物語において、エピローグが有るものと無いものが見られ、翻訳によってはもともとの写本に無いにもかかわらず、エピローグを収録しているものがある。このことは、写本の校訂作業にも密接に関わる問題である。 写本校訂においては、ライデン大学所蔵の『百一夜物語』の写本テクストの書き起こし作業を進めた。あわせて枠物語の部分について、ほかの複数の写本と比較分析を行い、論文としてまとめる準備を行った。 ミソジニー(女嫌い)とミサンドリー(男嫌い)の主題に関しては、『百一夜物語』の収録話「王子と七人の大臣の物語」に焦点をあてて、オンラインによる研究発表を行った。まずミソジニーという概念とクルアーンのユースフ章にある「あなたがた(女性)の悪だくみ(カイド)は激しい」12:28という章句との関連性を追求した。次に、この物語の枠組み自体が男性中心に設定されており、側女vs七人の大臣、王、王子という構図がミソジニー色を強めていることを示した上で、大臣たちの語る物語に見られるミソジニー的側面を述べた。最後に、ミサンドリーでは、側女の語る物語におけるミサンドリ―的側面を明らかにし、さらに王の怒りとそれによる混乱、王の優柔不断さなどをとりあげた。発表後の質疑応答でも今後の調査に資する有益な意見や文献が提示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度はコロナ禍で海外調査実施がかなわない社会情勢となったため、アラビア語写本の実物閲覧や写本ワークショップへの参加ができなかったことなどから、写本校訂の進め方をなかなか明確にできなかった。また本務校において、校務が多いことにくわえ、オンライン授業となったため、指導に通常より多くの時間と労力を割かなければならなくなり、本研究の遂行に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に社会情勢が改善されれば、海外調査に出かけ、写本の実物の閲覧を行う。また海外の教育機関によるオンライン写本ワークショップがあれば参加し、古文書学、倫理的問題、手書きの書体、読者のメモ、写字生、伝承の実践についての知見を深めることで、『百一夜物語』の写本校訂の基礎固めを行う。現在、写本全体の書き起こしは7割がた終えている。秋には国際学会で写本校訂について発表する予定である。さらに、ひきつづきライデン大学所蔵の『百一夜物語』写本の枠物語を主題とした論文の投稿準備を行う。 ミサンドリー的側面においては、君主の鑑の女性版ともいえるMirrors for Princess関係の文献をさらに掘り下げていく。女の不義と男の非道に着目することで、「王子と七人の大臣の物語」にくわえ、枠物語においてもミソジニーと表裏一体となったミサンドリーの要因を考察し、「女嫌い」に隠された「男嫌い」の要素をあぶりだしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定していた海外における調査、研究発表、ワークショップへの参加がかなわず、旅費の支出ができなかった。海外への旅行が可能な状況になれば、それらの研究活動を令和3年度に行いたい。
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