令和4年に国際雑誌に投稿した101夜物語のライデン写本に関する英語論文の査読結果は、多少の修正を入れる条件で掲載可となった。その後、査読結果と編集側のガイダンスに基づき、論文に加筆修正を行い、特にアラビア語テクストの表記方法について、幾度かやりとりをしなければならなかったため、時間がかかってしまったが、現在はゲラを待っている状態である。(すでに雑誌編集長からは掲載予定の巻号についても通知があった。) その写本のアラビア語テクストは論文の最後に載せたが、中間アラビア語であるため、それを最終的にどのように校訂するか、注には何を入れるのかなどについて、専門家の意見を聞くため、最終年度にサウジアラビアの研究所とドバイの写本研究所、アルアイン大学を訪問した。例えばサウジアラビアでは、辞書の写本専門家に相談し、写本校訂の知見を得ることができた。一方、中間アラビア語の扱いについては、研究代表者と写本専門家とのスタンスの違いが大きいことが判明したが、それによって方向性が定まったことは前進であった。枠物語内容については、女嫌い、男嫌いに関わる内容について、ライデン写本とほかの写本とで比較分析を行った。 本研究期間全体では、千一夜物語との類似で注目されてきた百一夜物語の枠物語の展開のなかで、女嫌いに隠された男嫌いの要素を解明することを目指した。この枠物語と、内容が酷似する漢訳大藏經中の仏教物語及び千一夜物語の枠物語との関係性を精査した結果、女嫌いは女性登場人物の夫に対する裏切り、そして男嫌いはそれを受けて女性に復讐する男性登場人物の残虐行為に見られた。さらに、仏教とイスラームの宗教的背景が物語解釈に及ぼす影響があったことが確認された。百一夜物語については、上述のとおり、枠物語の写本校訂を完了し、その方法論をおおむね確定することができ、物語全体の校訂本作成への足掛かりを得た。
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