研究課題/領域番号 |
18K00516
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
安保 寛尚 立命館大学, 法学部, 准教授 (50733987)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エシュ / 宗教混淆 / フェルナンド・オルティス / チョテオ |
研究実績の概要 |
本研究では、1920年代から40年代のキューバで流行したアフロキューバ主義と呼ばれる黒人芸術運動において、どのように黒人文化の受容が進み、混血アイデンティティの言説が形成されたのか、そのプロセスの解明に取り組んでいる。 今年度の実績としては、「エシュからシグニファイング・モンキーへ-アフリカ、キューバ、アメリカを結ぶ神話について-」と題する論文を執筆した。これは2019年9月刊行予定の『立命館言語文化研究』31巻1号に掲載される。この論文では、アフリカ起源のトリックスター、エシュが、キューバにおけるカトリックとの宗教混淆によってどのように変容を遂げたかについての考察を含む。分析対象としたキューバ神話は、本研究の対象期間にキューバで発表されたテクストである。そしてアフロキューバ主義においては、この宗教的「混血」も、キューバの混血アイデンティティの言説において重要な役割を担った。したがってこの論文は、部分的にではあるが、キューバにおける当時の黒人主義の展開を明らかにする意義がある。 また、本研究計画の一つは、キューバの民族学者フェルナンド・オルティスの黒人文化に対する態度の変化について、これを混血アイデンティティの着想との関係から解明することである。その着想に関わって、オルティスが書き残したキューバの不敵なユーモア「チョテオ」についての未発表原稿がある。彼はアフリカ起源のユーモアが、白人文化との接触によって、キューバ特有の洗練された文化実践に変容したと考えたのである。9月に行ったキューバでの資料収集で、これらの原稿を入手することができた。今後、その分析に取り掛かり、成果を発表する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、神話と宗教の側面からキューバの混血文化の形成の解明に取り組み、論文を執筆した。本研究は、20世紀前半のキューバで、様々な言説がどのように合流して混血アイデンティティの形成に至ったのかを考察しており、その成果を一つ上げることができたと考えている。また、次の段階として、キューバのユーモアにおけるアフリカの伝統の変容の分析に着手するが、そのために必要な資料を入手できたことも、おおむね研究が順調に進展していると考える理由である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度には、すでに10月に研究発表と年末までの論文執筆を計画済みであり、研究計画を着実に遂行することができると考えている。研究発表では、フェルナンド・オルティスの『タバコと砂糖のキューバ的対位法』を扱う予定である。この本は、奴隷制を象徴する砂糖と、キューバの独自性を象徴するタバコの歴史や文化についての章が、対位法的に複雑に構成されている。本研究では、オルティスがこの書で、キューバにおける一つの混血の産物としてのユーモアを利用したことを明らかにする計画であり、この発表は論文執筆に向けた研究成果となる。また年末に提出予定の論文では、歴史物語としてのバラードに注目して、黒人の祖先と白人の祖先の和解を象徴的に描いたニコラス・ギジェンの「二人の祖先のバラード」を分析する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
一つめに、キューバの旅費が予定よりも安く済んだことが理由である。これは大学の留学プログラムの引率教員としてキューバに渡航したため、一部旅費が支給されたためである。本研究のための活動は、そのプログラム終了後に行った。二つめに、研究協力者への謝金の支払い手続きに不備があり、まだ執行されていないためである。 昨年度は、そのプログラム引率が理由で滞在期間を十分に取れなかったため、次回以降の滞在を予定よりも長くして助成金を使用する計画である。
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