研究実績の概要 |
最終年度には、マイアミ大学附属キューバ遺産コレクションで研究を行い、その成果として「ヴァナキュラーな素材の文学的加工について:キューバの黒人ヴァナキュラー文化を事例に」(ヴァナキュラー文化研究会、立命館大学)、および「キューバの密林:リディア・カブレラと神話/民話、驚異的現実の交差点」の二つの口頭発表(立命館国際言語文化研究所連続講座)を行った。さらにこれらの口頭発表を土台に、「リディア・カブレラの『キューバの黒人のおはなし』とキューバのヴァナキュラー文学」と題する論文を執筆した。 本研究の目的は、1920ー40年代のアフロキューバ主義と呼ばれる黒人芸術運動において、詩人や音楽家、民俗学者の作品が、黒人文化の受容と混血アイデンティティの言説形成をどのように進めたのかを解明することであった。その解明のために3つの具体的実施計画を立てた。第一に、黒人詩をめぐる詩と音楽の共同制作において、黒人文化がどのように発信・受容されたのかを明らかにすることである。これについては『モダニズムを俯瞰する』(中央大学, 2018)に所収の「ミノリスタとアフロキューバ主義」の論考を発表した。二つ目の、アフロキューバ詩の2冊のアンソロジーの比較分析を行い、黒人詩に向けられた異なる視点を明らかにすることについては、「アフロキューバ主義における黒人詩の流行についてーエミリオ・バジャガスとラモン・ギラオの黒人詩アンソロジーをめぐる一考察」(『立命館言語文化研究』第33巻1号, 2021)で解明することができた。そして第三に、民俗学者フェルナンド・オルティスが生み出した混血のレトリックを明らかにすることであるが、これについてはコロナ禍の影響で研究計画通りには進まなかった。その一方で、上述したリディア・カブレラの分析に取り組むことで、別の角度からアフロキューバ主義の成果を明らかにすることができた。
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