研究課題/領域番号 |
18K00518
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
中道 静香 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 外来研究員 (30372634)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 千夜一夜 / アラビアンナイト / アラビア語 / 写本 / エジプト |
研究実績の概要 |
本研究は、『千夜一夜/アラビアンナイト』のアラビア語手稿写本および初期刊本の系譜や、その全体像を明らかにすることを目的としている。前年度に引き続いて令和元年度は、一応の完成形とみなされている1001夜完結のエジプト系4巻本写本群(18~19世紀)に加え、これまで調査が手薄であった1001夜完結の3巻本諸写本(18~19世紀)にも注目し、その系統や他の写本群との関連性を探ろうと試みた。この目的のためすでに入手していたロシア国立図書館所蔵の3巻本写本の画像データを分析し、その結果、署名や日付は記されていなかったものの、筆跡によって写本作成者を同定することができた。またおよその作成年代も推定しうる。さらに調査の過程で、同系統の写本がもう一点存在することも判明した。所蔵館側の記録や情報が錯綜しており、各写本の書誌情報および両写本の関係性についてはさらなる調査と確認が必要であるが、これら2点の写本は内容的に、エジプト系4巻本写本群とも他の3巻本写本(2種類)とも、強い連続性・関連性が見いだせなかった。つまり、上記の写本群とは別系統の写本と考えられる。シリア系写本(15世紀頃)において300弱であった夜の数が、題名通り1001夜へ拡張されるまでには複数の試みがあった。本研究で調査した写本も、そのうちの一例と位置づけられ、ムフセン・マフディ(1994)らの先行研究が構築してきた『千夜一夜』写本の歴史に、新たな情報を追加するものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は、2点の同系統の3巻本写本のうち、画像データを入手できた1点のみ詳しい分析を行った。もう1点は現地で閲覧しており、その際の調査記録に拠って判断した。しかし、所蔵館から提示されたデータと書誌情報に不整合があることがわかり、確認のため別の1点についても画像データを入手する必要が生じた。今後データを入手し次第、両写本、さらには他の関連写本との校合を行う予定である。 同年度中にエジプト・カイロでの写本調査(3月)を計画していたが、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、急遽中止した。本研究に必要な写本の実見調査を行うことができず、研究の進捗状況は予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では海外渡航の見通しが立たないため、今年度も海外での現地調査や資料収集が実施できない可能性がある。写本調査に関しては、できれば、所蔵館から写本のマイクロフィルムや画像データを取り寄せることで対処する。 令和元年度の調査・研究では、当初の予想とは異なる結果が出たが、新たな興味深い事実も判明した。追加調査を行い正確な情報を確認した上で、口頭発表もしくは論文の形で発表する予定である。『千夜一夜』写本の系統を考えるにあたっては、写本テクストそのものの分析と、写本をめぐる社会的状況の分析という、二つのアプローチを組み合わせることが不可欠である。今後は後者のアプローチとして、ヨーロッパの東洋学者・旅行者らの足跡や彼らと接点のあった人々と場所に関する情報もふまえつつ、写本群の説得的な全体像を示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査の予定がキャンセルされたため。 海外の図書館や研究機関が所蔵する写本の複写代金に使用する。
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