• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実施状況報告書

句構造構築のダイナミズム:意味概念と音韻からの協働に関する比較統語研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K00519
研究機関北海道大学

研究代表者

奥 聡  北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (70224144)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード比較統語論 / ラベリング / 自由語順 / 複合動詞 / 結果構文 / 他動性交替現象
研究実績の概要

人が単語を組み合わせて頭の中で言語表現(句や文)を組み立てていく仕組みに関して、Chomsky (2013, 2015)のラベリング理論を発展させる方向で、研究を進めている。初年度は、当初から進行中であった、日本語の自由語順現象と英語の数量詞上昇現象の相補分布関係に対して、ラベリングにもとづく新しい分析を提案し考察を進めた。とりわけ、音声解釈に関わるラベルのタイプと意味解釈に関わるラベルのタイプが異なりうるという、これまで深く検討されていなかった可能性に対して、実際の言語現象を用いながら、検討をすすめた。これにより、同じ問題を扱っていた先行研究(Bobaljik and Wurmbrand 2012)に見られる、脳への多大な計算負荷を前提とする必要がなくなることを示した(日本英文学会シンポジアム5月、世界言語学者会議7月、でその成果の一部を報告し、専門家たちと情報交換を行った)。また、初年度の後半では、複合動詞に対するラベリングの問題をSaito (2016)の提案を発展させながら、日本・英語・中国語の他動性交替現象を例に、検討をはじめた(これらの研究経過は、米国コネチカット大学9月、日本英語学会11月、国立国語研究所プロジェクト・ワークショップ12月で発表し、世界の専門家と議論を重ねている)。
こうした研究活動を続けていく中で、開始当初はあまり明確でなかった、新たな興味深い問題も明らかになってきており(たとえば、意味解釈に関わるラベルの具体的な特性は何か、など)、2年度目以降の研究に、つながってきている。
これにより単純な併合操作(merge)の繰り返しと、最小探索(minimal search)のみから人の統語能力を解明しようとする研究プログラムに対して、さらなる貢献ができると考えている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

おおよそ当初の通りに研究は進んでいる。日本語に自由語順がある一方で、数量詞繰り上げ(Quantifier Raising: QR)が難しいという事実と、英語において語順の制限が厳しい一方でQRが自由であるという事実に関して、Chomsky (2013, 2015)のレベリングのメカニズムによる新たな説明方法を検討している。その中で、日本語でも非顕在的スクランブリンがないこと、英語においても顕在的QRがないことを原理的に説明できる可能性が明らかになってきた。さらに、内的併合による構造において、上位のコピーが発音されるのがもっとも一般的であるとすると(Chomsky 2013)、従来、顕在的移動とされてきたもの一般に関して、上位コピーの発音を妨げる理由が必ず存在することが強く示唆される。このような考え方の先鞭として、Stjepanovic;, S. (2007)によるセルボクロアチア語の焦点構文の分析やBoskovic (2002)によるルーマニア語の多重wh疑問文の分析があるが、本研究もそのような研究の流れの中で、新たな「上位コピーの発音を妨げる理由」の提案につながっている。また、Saito (2017)の日本語におけるoperator移動によるwh句ライセンシング分析も、本研究の提案と結びつく可能性も見えてきた(Oku 2018)。また、今年度の後半には、複合動詞のラベリングに関する問題にも視野を広げはじめ、初期段階の考察を東北大学におけるワークショップ(12月)で報告した。日本語・英語・中国語で観察されている複合動詞の類型論的特性に関して、Saito (2016)の洞察を発展させる可能性が見えてきている。

今後の研究の推進方策

こうした研究活動を続けていく中で、開始当初はあまり明確でなかった、新たな興味深い問題も明らかになってきており、それらを発展させる形で、2019年度以降の研究推進方策を次のように考えている。
・「非顕在的移動が実際に起こる場合は、上位コピーの発音を阻害する理由がある」というテーマをさらに追及していく。ラベリングの可否がその理由の1つである可能性を、2018年度研究では明らかにしてきたが、さらに他の現象にも当てはまるかを探索すると同時に、これまで別の理由と考えられてきた分析との統合の可能性も追求してみたい。
・「ラベリングにもとづく複合動詞の可否」というテーマが、2018年度の研究から見えてきた。これには、私がこれまで行ってきた日本語の非対格交代現象・他動性交代現象の分析、中国語の他動性交代現象の分析との、有機的な結びつきの可能性が見えてきている。とりわけ、Saito (2016)の中国と英語の目的語削除の可否に関する提案が、中国語では複合動詞が生産的で豊かであるのに対して、英語ではそれが限定的であるという事実と結びつくかの生を探求してみたい。とりわけ、英語のように明示的形態的主語述語一致現象も、日本語のような格助詞も持たない中国語において、ラベリングがどのように行われるのかは、今のところ大きな謎である。幸い国内外に中国語専門の言語学者および大学院研究協力者がいるので、日本語英語に中国語の現象も加えた類型論的研究に視野を広げ、ラベリングにもとづく句構造構築の仕組みに対する研究をより深めていく方向での研究を進めたい。
このような研究を進めていくうえで、これまで通り、文献調査と母語話者協力者からのデータ収集をしっかり行い、また、国内外の研究者との情報交換・議論を、学会・研究会等への積極的な参加を計画している。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [雑誌論文] Labeling and Overt/Covert Movements2018

    • 著者名/発表者名
      Oku, Satoshi
    • 雑誌名

      Nanzan Linguistics

      巻: 13 ページ: 9-28

  • [学会発表] Light Verb and Verbal Compounds2018

    • 著者名/発表者名
      Oku, Satoshi
    • 学会等名
      国立国語研究所プロジェクト『日本語から生成文法理論へ:統語理論と言語獲得』第5回ワークショップ
    • 国際学会
  • [学会発表] A Comparative Study of Unaccusativity Alternation and Its Theoretical Implication2018

    • 著者名/発表者名
      Oku, Satoshi & Qiu, Linyan
    • 学会等名
      日本英語学会第36回大会
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Unaccusativity Alternation in Japanese and Chinese2018

    • 著者名/発表者名
      Oku, Satoshi
    • 学会等名
      UConn Linguistics 50th Anniversary
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Unaccusativity Alternation: An Eastern Asian View2018

    • 著者名/発表者名
      Oku, Satoshi & Qiu, Linyan
    • 学会等名
      20th International Congress of Linguists
    • 国際学会
  • [学会発表] ラベリングにもとづく逆作用域解釈の可否2018

    • 著者名/発表者名
      奥 聡
    • 学会等名
      日本英文学会第90回大会シンポジアム
  • [学会・シンポジウム開催] Special Lectures on Linguistics2018

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi