今年度はブラーフイー語研究の基盤となる、ブラーフイー語のグロス付きテキストの作成を行った。ブラーフイー語話者であるパキスタンのバローチスターン大学准教授のリアーカット・アリー博士の協力を得て、民話の録音の書き起こしと小説のローマ字化を進め、その結果700ページ弱のグロス付き書き起こし対訳テキストを作成することができた。現在はそのテキストに語彙集と文法概要をつけて、Brahui Texts という題で出版の準備を進めている。 また、テキストを用いた文法の研究として、Asyndetic conditionals in Brahui という論文をリアーカット・アリー博士と共著で執筆した。これは、ブラーフイー語において条件文を作る際に、「もしも~たら」といった語を一切使わず条件を表すことができることに注目し、その構文の成立条件を考察したものである。この構文においては、現在の文脈ながら過去形を用いることで、その事象が仮定であることを表すバックシフトという方策が用いられている。バックシフトはフランス語など世界の言語に見られる仮定の表現法であり、それがブラーフイー語で一般的な接続詞「そして、それから」の省略と組み合わさって if なし条 件節が成立していると主張した。この論文は査読を経て Oxford University Press の Handbook of Dravidian Linguistics に掲載予定である。 この研究については、イタリアで開催された37回 South Asia Languages Analysis における招待講演で発表した。 また、同じく条件節の成立に関する研究を日本語の論文としてまとめ、論文「ブラーフイー語の時制とifなし条件文」を執筆し、三省堂書店から出版予定の『時間と言語」に掲載される予定である。
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