研究課題/領域番号 |
18K00529
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
入江 浩司 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (40313621)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アイスランド語 / 非人称構文 / 不定人称文 / フェーロー語 |
研究実績の概要 |
本年度は現代アイスランド語の非人称構文のうち、名詞類の指示性の低下による非人称化の現象として、不定代名詞的用法の名詞類による構文の研究を中心に行なった。 まず、多言語のパラレルテクストが得られるサンテグジュペリ『星の王子さま』を分析対象として選び、原文におけるフランス語の不定代名詞onがアイスランド語訳でどのような手段で翻訳されているかを調べた。その結果、アイスランド語の不定人称文で出現頻度が最も高いのはmadur(普通名詞としては「人、男」の意味)の単数形で、次いでその複数形であることが判明した。単数形と複数形は、同一文中で同一指示を行うために繰り返されるとき、単数形の場合はmadurを繰り返し、複数形の場合は人称代名詞に置き換えて前方照応を行うという点で異なり、単数形の方が不定人称化の程度が進んでいると考えられる。この不定人称的用法のmadurの機能について、言語類型論的立場からヨーロッパ諸語における不定人称文を扱った先行研究を参考にして検討した。特にGast & van der Auwera (2013)は、他の先行研究を統合した意味地図を提案しており、本研究はそれを用いてアイスランド語のmadurの用法の広がりを分析し、その単数形と複数形の機能的分布の違いを明らかにした。また、アイスランド語と系統的に最も近いフェーロー語の不定人称文との対照研究も『星の王子さま』のテクストを用いて行った。その成果は「アイスランド語とフェーロー語の不定人称文」と題する論文として所属機関の紀要に発表した。 この研究成果は、先行研究で提案されている意味地図を用いた手法が、アイスランド語およびフェーロー語の分析においても有効であり、同一言語内での複数の不定代名詞類の意味機能の分布の違いや、異なる言語間での相違を捉える方法として用いることができることを示す事例として意義をもつと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
部分的ではあるが、当初設定した課題について研究を進めることができ、その成果を論文の形で公表できたため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は家庭の事情により現地調査(海外)ができず、文献調査を中心とする言語データ収集で研究を行ったが、次年度以降は現地調査を行うことにより、収集するデータの幅を広げ、研究課題の別の側面について順次取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は現地調査(海外)が家庭の事情により実施できず、当初計上していた海外出張のための旅費が消化できなかった。現地調査に代わり、文献調査を多く行い、書籍と電子データ作成のために必要な機器の購入に当初の計画より多くの予算を使用したものの、その額は当初計上していた旅費の額よりは少なく、次年度への繰越額が生じた。次年度には、繰越額と当該年度分の助成金を合わせて現地調査(海外)に使用することにより、調査期間を延長したり調査地点を増やす予定である。
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備考 |
本項目記載時では上記論文が未登録であるが、2019年5月中に登録の予定。
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