本年度は現代アイスランド語の非人称動詞のうち、属格主語をとるものを中心に研究した。属格主語をとる非人称動詞は非常に数が少なく、先行研究でも7個ほどしか報告されておらず、意味の面では「知覚できる、感じられる、推測される、考慮される」といった知覚や認識に関するものが多い。それらの動詞についてアイスランドの The Arni Magnusson Institute for Icelandic Studies がウェブ上で公開しているコーパス(The Tagged Icelandic Corpus)を利用し、動詞の共起成分を調査した。調査の結果、主語として解釈のできる属格名詞は大半が無生物で、また数としては属格の代名詞が多く、中でも後続の ad 節(英語の that 節に相当)を指す順行照応的な中性単数代名詞(英語の it に相当)の属格形の出現が多かった。他の斜格主語をとる非人称動詞と同様に、主語が意思をもつ動作主として解釈できる例はなかった。 なお、上述の非人称動詞のうち、動詞 gaeta には主格主語と人称・数の一致をし属格目的語をとって「~に注意を払う」という意味の他動詞構文での用法もあり、属格名詞句のみが現れる非人称構文では「~が知覚できる」という自動詞の意味になり、また、var「認識された」という形容詞を成分とする動詞句 verda var「意識に上る状態になる」には、主格主語と属格目的語をとる構文と、属格名詞句のみが現れて形容詞が中性形になる verda vart という非人称構文があり、これらは動詞の自他交替に関わる現象と見ることができる。
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