研究課題/領域番号 |
18K00530
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
仲本 康一郎 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (80528935)
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研究分担者 |
岡本 雅史 立命館大学, 文学部, 教授 (30424310)
加藤 祥 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, コーパス開発センター, プロジェクト非常勤研究員 (40623004) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心の葛藤 / 力のダイナミクス / 仮想的相互行為 / 否定的直喩標識 |
研究実績の概要 |
研究代表者仲本は、人が自らの人生を語るとき、その心的世界を欲求と信念の間で揺れ動く心の葛藤として表わす傾向があることを指摘し、その背後で働く認知的営みとして力のダイナミクス――力動性に基づく比喩理解が存在することを明らかにした。具体的には、〈心は身体である〉〈心は闘技場である〉という二つの概念メタファーを中心に、心の葛藤をめぐる語りが、身体的なバランスの維持/喪失/回復、あるいは欲求と信念の間で繰り広げられる相互行為――闘争として表現されることを解明した。 次に、分担者岡本は、独話における相互行為性を解明するため、講義中に実践した対話変換実験に基づく分析をもとに、仮想的相互行為がオープンコミュニケーションモデルによって相互行為と認知の2つのレベルで記述することが可能であることを示した。さらに、否定的直喩標識「じゃないけど(ではないが)」に着目することで、語りの中でアナロジーの否定的側面がどのように言語化されるのかを観察するとともに、そうした否定的側面がプロファイルされる基盤を実際の日常会話の談話シークエンスの分析によって明らかにした。いずれの分析結果においても、その背景には、談話における話し手と聞き手の共有基盤化プロセスが大きく関わっていると考えられる。 以上の二つの研究を通して、本研究が目標とする「語りの生成と変容のダイナミズム」についての考察が、1)比喩による語りの構造化、2)独話/対話に基づく相互行為という観点から多面的に深められてきていると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者仲本は、心的世界に関する語りに注目し、そこで特徴的に用いられる比喩的な表現が、力のダイナミクスに基づく概念メタファーを基礎として成立することを明らかにした。その成果は、「力のダイナミクスに基づく相互作用の概念分析―「心の葛藤」をめぐって―」と題する論考として、2020年2月に『山梨大学国語・国文と国語教育』に公表された。また、昨年度の成果である仕事の意味論についても、予定通り2020年3月に『ことばから心へ――認知の深淵』(開拓社)に所収された。 次に、分担者岡本は、昨年度より取り組んできた「独話における相互行為性」の分析を通じて、仮想的相互行為とオープンコミュニケーションの相互関係の一端を明らかにした。その成果は、”Fictive interaction in prose text: An experiment on prose-to-dialogue conversion”と題する口頭発表として、国際認知言語学会 (ICLC-15) において報告された。さらに、昨年度まで分担者であった加藤との共同研究として、語られる「物語」の同一性認知を支える認知モデルの構造の解明に向けて、同一の物語の変種間の類似性判定に個々の読者の認知モデルが大きく影響することを明らかにし、国際語用論学会 (IPrA 2019) にてその成果を共同報告した。さらに、小説などの書きことばと日常会話場面の話しことばにおける否定的比喩標識の比較観察から、書き言葉よりも話しことばで否定的直喩標識が用いられやすいことや、談話における直喩標識とヘッジ表現に共通した特徴があることなどを明らかにした。その成果は日本認知言語学会第20回全国大会の招聘発表として報告された。その他、本邦初となる認知言語学大事典において、本研究の方法論となる「認知語用論」の章を担当し、その可能性について論じたことを付記する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究は概ね順調に進んでおり、今後も当初の計画に沿って研究を推進していく予定である。 まず、代表者仲本は、昨年度に引き続き、人生の物語が比喩理解を通して概念化されることに注目し、従来までに提出された概念メタファーが、語りを構成する展開構造を組み込んでいる可能性を検討する。また、語りは他者との相互行為において具現化することから、必然的に語りは他者への配慮に基づく表現のゆらぎを生む。今後の研究では、そうした表現のゆらぎに対してファジー意味論を通した分析を試みる。 次に、分担者岡本は、まず、昨年度から取り組んでいる語りの中の「声」の複数性がもたらす仮想的な相互行為性を、時間軸における対比(過去-現在、現在-未来)と事実性の軸における対比(事実-反実仮想)という2つの分析観点から再検討する。さらに、語り手が語る事実の当事者である場合と非当事者である場合を峻別し、同一の報告内容がどのように言語的な差異を生じるかを明らかにする。いずれも思弁的な内容に留めず、実際の日常会話における談話資料や被災の語り部の音声データから実証的に解明することを主眼とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者仲本については、年度末に注文していた物品の納品が遅延したため、物品費1万円の会計処理が次年度に繰り越されている。この繰越予算については、本年度納品される物品費として使用する予定である。 分担者岡本については、年度末に学会出張が予定されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により中止となったため、その分の旅費・参加費5万円弱の会計処理が次年度に繰り越されている。この繰越予算については、本年度購入予定の物品費として使用される予定である。
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