研究課題/領域番号 |
18K00532
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松江 崇 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (90344530)
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研究分担者 |
戸内 俊介 二松學舍大學, 文学部, 准教授 (70713048)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 甲骨文 / 否定詞 / 疑問文末助詞 |
研究実績の概要 |
今年度は本科研の代表者・分担者・連携研究者による例会を二度開催し、時間軸と空間軸の双方に視点をおいた、古代中国語における動態的変化を探るのに適した文法・語彙項目の検討を行い、否定詞・人称代詞・疑問文末助詞・並列接続詞といった具体的な項目を選定した。また科研費新学術領域「ヤポネシアゲノム日本語と関連言語の比較解析によるヤポネシア人の歴史の解明」(研究代表者:遠藤光暁)と「古代漢字音訳資料研究会(第1回)」を共催し、研究発表・討論への参加を行った。主要な研究成果は以下のようである。 研究代表者の松江は、古代中国語における疑問文末助詞の動態的変化を論じるための第一段階として、『論語』などの上古魯方言にみられる「與(歟)」と「乎」の共時的な機能差異について考察を進め、「與」は相対的に「話者指向」が強く、「乎」は「聞き手指向」が強い疑問文末助詞と整理し得ることを指摘した。この成果は、今後中古・近古における状況と有機的に結びつけ、当該形式の動態的変化を論じるための基礎となり得るものである。また、揚雄『方言』についても分析を進め、そのなかの「朝鮮」方言と記された語彙について、意味と音価とを推定し、いくつか非漢語的な語彙が存在することを指摘した。 研究分担者の戸内は、上古の否定詞に着目し、春秋戦国時代の否定詞「弗」は、否定詞「不」と目的語代名詞「之」の結合した成分であると一般的に考えられているが、時代を遡った殷代甲骨文の「弗」にはこの種の機能が認められないことを指摘した上で、甲骨文の「弗」は文の表す事態の時間軸上の展開が終結点に至らない、或いは何らかの変化が実現に至らないことを示す限界性(telic)の否定詞であるが、「不」はアスペクチュアリティにおいて無標の否定詞であると主張した。このことは、今後、甲骨文と春秋戦国期の言語との通時的な関係を検討する際に参照すべき事項であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおりに、記述すべき文法項目を選定し、さらに二項目については上古中国語における共時的機能を具体的に明らかにし得たため、おおむね順調に進展していると言える。また、当初予定していなかったことであるが、他の研究グループの中国語以外の研究者との交流により、研究の幅が広がる可能性が生じてきたことも重要である。
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今後の研究の推進方策 |
研究はおおむね順調に進展しており、次年度も基本的には当初の計画通り研究を進める予定である。しかしその一方で、文法・語彙の動態的変化を論ずる際には、音韻の変化との関係が重要であることを改めて認識することにもなったため、連携研究者であり音韻史研究を専門とする野原氏に、今後は分担者として加わってもらい、文法・語彙史と音韻史とをリンクさせるかたちでの記述を可能にする体制に変更する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は10万円以下であり、それほど大きな変更が生じたわけではない。主として、当初予定していた外国語論文の校閲費に関して、論文の内容の修正が生じたために、校閲依頼を次年度に繰り越すことにしたことによる。当該論文の修正は根本的なものではないので、早急に完了し、次年度に外国語の校閲を実施していく予定である。
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