最終年度にはフィールド調査によりドム語の統語論についての新たなデータを得た。これに基づき二つの論文の執筆を進めた。 本研究課題は課題名の通り、ドム語及び周邊諸言語が話される現地での調査に基づき、新たなデータを入手しつつシンブー諸語の比較研究を進めることを當初の目標としてゐた。殘念ながら現地調査が實質的に不可能な、所謂コロナ禍の時期を期間中に經驗し、期間の延長をしつつ、本來とは異なる角度からドム語の既存資料を見直すなどの作業を行ふことになつた。 第一の成果は、日本語起源論の分野でパプア諸語がどのやうに取り上げられてきたか、といふ日本の言語研究史におけるパプア諸語の扱ひ方の問題をまとめたことで、グループとしての實體のない諸言語が「パプア諸語」といふ名前を與へられたことで一つの言語的な個物のやうに看做されてゆく過程がまさに日本語起源論とパプア諸語論との接點であつたことを論じた。 第二の成果として、主として既存のドム語資料を利用した記述の進展があつた。存在表現、「一」を表す形式、ドム語の形容詞の位置付けなどについて口頭、論文で研究内容を發表した。 第三の成果はオセアニア、あるいはニューギニアといつた地域の諸言語の類型特徴の見直しに關はるもので、人稱代名詞、韻律特徴、數表現、形容詞といつた領域を取り上げて、口頭發表や論文として新たな觀點を提示した。韻律の研究は日本語アクセントに關する副産物も生んだ。 第四の成果は主としてエスペラントなどをテーマにした共通語論との關はりにおける副産物である。比較的關聯が分かりやすいのは言語形式を取り上げる類型論的研究で、形容詞が開いた大きな語類をなすエスペラントと形容詞が閉ぢた小さな語類をなすドム語を對照的に取り上げた論文をエスペラントで執筆した。その他、母語話者集團を中心に抱へるドム語とさうではないエスペラントやトク・ピシンの在り方について考察を進めた。
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