研究課題/領域番号 |
18K00534
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田村 幸誠 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (30397517)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 類型論 / 認知言語学 / 名詞化・体言化 / 指示詞 / エスキモー諸語 / 中央アラスカ・ユピック語 |
研究実績の概要 |
本年は研究論文を2本執筆した。(I) 「中央アラスカ・ユピック語からみた体言化理論」(『体言化理論と言語分析』)と(II) 「地形調和仮説からみた中央アラスカユピック語の指示詞の使用に関する一考察」(『時空と認知の言語学IX』)である。昨年度の報告書で、Nominalization in Central Alaskan Yup’ik(Nominalization in Languages of the Americas )という論文を John Benjamins の Typological Studies in Language に投稿し採用されたことを述べた。この論文の趣旨は、中央アラスカユピック語 (CAY) において、いわゆる関係節や補文節というものが語彙的な名詞化の延長線上で捉えられることを示したものであった。論文(I)は、その記述的な報告を受けて、今度は、 Masayoshi Shibatani によるnominalization theory の妥当性を考えることに焦点をおいた論文である。Shibatani は100以上の言語の通言語的な調査から、通言語的に必要な文法項目として「nominalization (名詞化)」の必要性を主張している。(I)ではその理論分析をCAYの観点から述べ、その上でその妥当性に関して議論したものである。論文 (II)は本研究のもう一つの柱である指示詞に関してまとめた論考で、CAYにおいて、直示性の中に地形的側面がbuilt-in されている事実に関して、考察を行ったものである。最終年はまとめとして、 (I)と(II) の研究を通じて、指示性という視点から並列(同格)、修飾という現象を統一的に議論する方向に進めていきたいと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の3月、そして、今年度の8月と3月、予定していたアラスカでの調査がコロナ禍のため行うことが出来なかった。上の論文 (I)と(II)、そして昨年度の論文と合わせて順調に進んでいただけに、1ヶ月にわたるネイティブスピーカーへの直接的な聞き取り調査が出来なかったことは大変残念である。CAYのインフォーマントもこのような状況でも本研究に協力的で、ビデオでの聞き取り、そして、メールのやり取り等を行ってくれた。その点、過去の調査を確認することにほとんど問題はなかった。しかし、本研究の調査対象が、指示詞、名詞の指示性ということにあり、それはやはり、現地に赴いて、状況を作ってから言語使用の確認をする必要があり、その点は大きな遅れの原因になった。 研究計画の延長を申し出、それが認めていただいた。最終年度はコロナ禍で調査できなかった分をアラスカでしっかり調査し、また、それを論文という形で発表したいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
一昨年度3月、昨年度8月と3月、コロナ禍でアラスカで調査が出来なかった。このことが研究の遅れとなっている。上で述べた3つの論文により、全体的なまとめにはかなり近づいていると考えられる。故に、最終年度において、しっかりとしたフィールドワークを行いたいと考えている。報告者が調査を行うアラスカの町では、ワクチン接種が(2021年4月)の段階でほぼ終了している。恐らく、2021年度9月には国際的な移動の関する方向性も定まっているのではないかと現段階で判断している。2021年度、2月3月に課題遂行のための十分なフィールドワークができるよう準備している。また、合わせて、研究成果を一昨年度と同様に海外の雑誌に投稿する準備も進めている。研究の要であるフィールド調査の見通しが現段階ではまだ、予測に過ぎず、その点に不安を感じる一方で、本研究計画前半で行った調査をもとに進めることができること、ビデオ会議を通じて調査できることもあり、その作業をしながら、2,3月のフィールド調査に進みたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在のコロナ禍で、一昨年度3月、昨年度8月と3月に予定していた、アラスカでのフィールド調査が遂行できなかったため。現在私が調査予定のアラスカの町はワクチン接種が終了している。あとは日本側のワクチンと国際的な移動に関する問題が残っている。2022年度2月、3月に調査が再開できるのではないかと予想を立てている。
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