研究課題/領域番号 |
18K00536
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
金子 真 青山学院大学, 文学部, 教授 (00362947)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 等位接続 / 冠詞言語と無冠詞言語 / 複数性 / 限定詞 / 付加詞 / 不定表現 / 否定 / 固有名詞 |
研究実績の概要 |
本年度は4件の研究発表を行い、過去に執筆した論文1本が刊行され、発表内容を記した2本の論文を公開した。論文集所収のペーパーでは「仏語の等位接続名詞句は、項位置でも例外的に無冠詞が許容されるが、これは、限定詞は指示対象の均質性を要求するのに対し、多くの場合等位接続名詞句の指示対象は均質でないためである」と主張した。そしてその論拠として「等位接続名詞句が指示対象に均質性を付与する制限的関係節を伴う場合、単一の限定詞の容認度は向上する一方、無冠詞の容認度が低下する」ことを挙げた。続いてCMLF2018における発表・論文において「仏語の限定詞や複数形と異なり、日本語では指示詞や複数形タチが等位接続名詞句全体に容易にかかることができるが、これは、日本語の指示詞は限定詞ではなく名詞句を修飾する付加詞であり、またタチも名詞句のNumPの主要部ではなく付加詞位置に生じることが可能であるためである」と主張した。 更に「名詞」をテーマとする研究集会における発表では、単一の数詞が、denominative用法と換喩的用法の固有名詞の等位接続(「5人の佐藤と田中」「5点のモネとセザンヌ」)を伴う場合について扱い、制限関係節の均質化作用はこうした用法にも及ぶことを明らかにした。同時に仏語と日本語の違いについても指摘し、その違いを多用な類別詞の存在(「人」、「点」)に帰することを提案した。 また、SLE2018とALLにおける研究発表、さらに勤務校の研究室が発行する雑誌に掲載された論文では、否定文中において、対照主題を伴う不定表現が示す全否定解釈(「他の誰かはいらない」)について日仏英語の対照研究を行った。そして、どの言語においても全否定解釈は語用論的に派生されるが、一時的出来事を表す文脈で全否定解釈が許容されるかどうかについて言語間に違いがある(「他の誰かには会わなかった」)ことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は「冠詞言語と無冠詞言語の間には、指示対象の限定の仕方、複数化のあり方に関し、体系的な違いがある」と示すことである。この仮説を裏付ける調査を実施する中で、今年度は次の2点の新たな進展があった。1点目は固有名詞に関するものである。仏語の複数形は、普通名詞につく場合、原則的に累加複数用法しか表さないが、固有名詞が定冠詞複数形を伴う場合、結合複数解釈を表すことがある(les André Dupont「アンドレ・デュポン夫妻」)。フランテクストにおいて用例を収集していた際、こうした結合複数の例が予想以上に多く見つかり、ネイティヴからも日常的に使用するという指摘が得られた。こうした観察を受け、固有名詞の複数形、等位接続の解釈を明らかにするために、まずその2つの用法について調査し、上記の研究発表を行った。今後、固有名詞の複数形についての調査をさらに進め、Aquavivaなどによって近年唱えられている「文法数や文法性は名詞句構造上の様々な位置に生じ得る」という仮説を背景として、英仏語でも複数形-sの解釈が普通名詞と固有名詞(の様々な用法)でどの程度異なるのか、またその解釈の違いは統語的な位置の違いと結びついているのか、検討を続ける予定である。 2点目は不定表現の解釈に関わるものである。本研究では、英仏語の不定表現は限定詞であるのに対し日本語の不定表現(「誰か学生」)は付加詞位置にある同格表現であると仮定しているが、この仮説を裏付けるため様々な環境における日英仏語の不定表現の振る舞いを調査している。その一つとして否定文中の不定表現の解釈を調査しているが、今年度は特に不定「代名詞」が対照主題を受ける場合について取り組んだ。今後「誰か他の学生は」といった不定表現が対照主題解釈を受ける名詞句を伴う場合について調査を進め、日英仏語に違いがあるか考察する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
記述面に関しては、次の調査を進める。仏語については、フランテクストにおいて1950年以降という条件で検索し、無冠詞等位接続の例を約1万件、限定詞+等位接続の例を約6千件、等位接続名詞句に関係節が後続する例を580件程収集しているが、こうした実例の分析を進める。日本語についても、既に収集済みの様々な構文における不定表現の実例の分析を進める。また申請書で言及した課題のうち、「トムとジェリータチ」のような、タチの有無で等位接続名詞句の外延が変化しない場合について、実例を収集しタチの機能についての分析を進める。また、等位構造について中国語(日本語と異なり指示詞も類別詞を伴い、複数に特化した類別詞も持つ)と、複数形について仏語クレオール(日本語と同様普通名詞につく場合結合複数解釈を許す)と日本語との対照研究も進め、本研究の仮説が通言語的にどの程度有効か検証する。 理論面については、複数形の解釈と統語構造との相関について検討する。例えばAquaviva等により「water等の非可算名詞も複数形をとることがあるが、その場合総称解釈は許されず、時空間上定位された解釈を受ける」ことが指摘されている。ところで日本語のタチも総称解釈を許さず時空間上定位された解釈を受ける。上記の固有名詞の例と合わせると、英仏語において固有名詞や非可算名詞など、通常複数形をとらない名詞が複数形をとる場合、日本語のタチと類似する解釈を持つと言える。今後こうした解釈上の類似を統語構造上の同一の位置に帰すことができるのか考察を深める。また昨年度末に、前田雅子氏と瀧田健介氏が「ダレダッタカ学生が」といった例のダレダッタカをsyntactic amalgamとする分析を提案し、その仮説を裏付ける経験的テストも提出しているという知見を得た。今後、そうしたテストを本研究が扱う構文にも適用することも構想している。
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